多くの日本企業は真の「グローバル段階」に進んでいない

ちなみに、平成21年の日本の輸出総額は、54兆1706億円である。恐らく世界全体で上位4位には入る。つまり、多くの企業にとって、基本的な国境を越えたビジネスは、広い意味での輸出である。「日本にある○○会社」という視点を残しつつ、海外へ生産、販路、資源調達のネットワークを形成する段階である。したがって、ここでのポイントは、日本本社主導の“グローバルビジネス”をきちんと執行できる人材の確保である。

多くの企業が感じている危惧は、こうした人材の供給が先細っている可能性であり、そのことについて、企業は戦略をたて人材供給を図っていくべきだろう。そこが生命線である。先にのべた日立や商社の事例は、各企業が、これまで機能してきた輸出型企業として必要な人材供給のパイプが壊れかけているのを懸念して導入した施策と考えられる。ファーストリテイリングのようなビジネスのグローバル化を急速に進める企業では、記事にあるような荒療治も必要だが、それでも基本的な路線は変わらない。多くの企業では、国境を越えたビジネスを行える人材を丁寧に確保していくことが必要だし、そのための中期戦略が必要なのである。

だが、ポイントは次の段階に進むときである。グローバル化段階論で言えば、世界的規模での経営戦略の展開に進む企業である。図で言えば、「グローバル」段階または「トランスナショナル」段階である。このタイプの企業は、ヘッドクオーターがどの国にあるかは問題ではなく、またトップや役員がどの国の人間であるかも問われない。基本的に地球規模でビジネスを展開する企業である。欧米系のグローバル企業に多いタイプである。

こうした企業になるときは、基本的には、単に人材のグローバル化を狙うだけではなく、経営の仕方の根本まで変える必要がある。公用語は恐らく英語になるし、また人材の登用は国籍を問わない。人事制度は世界統一されており、さらにひとつの国の文化に頼れないから、強い企業文化や理念をもって組織を束ねる。また、ここで初めて、人材要件としてのいわゆるグローバルマネジャー像が必要になってくるし、グローバルリーダー育成のためのキャリアトラックの設定が重要になってくる。欧米系の企業でよく見られ、また日本でもソニーやパナソニックなどが目指す形である。

こうした意味での企業が真のグローバル企業であり、競争力をもった段階では、わが国の企業は本当にあわてないといけない。いずれはそういう時が来るのだろう。

だが、私には日本企業が、今必要な人材グローバル化は、輸出段階をさらに進める人材のきちんとした確保ではないかと思う。これができないと屋台骨が崩れる。もちろん、そうした人材の国籍は問わないということはあろう。外国人採用もひとつの手段である。

いずれにしても、自らの企業が置かれている段階と、今後のグローバル戦略の方向性を踏まえないと、有効な「人材グローバル化」にはならない。今が考え時である。

(大橋昭一=図版作成)