したがって、これらの問いに自信をもって答えられる企業は、一安心である。なぜならば、ビジネスのグローバル化は、仕事に人をつけることができるから進むし、進むなかで次の世代が育つからである。

そして、私に言わせれば、日本企業の多くで人材のグローバル化が遅れたのは、単純な理由で、「やってこなかったから」という一言に尽きる。例えば、読者の企業の海外赴任者比率はどのぐらいだろうか。講演などの機会をとらえて、多くの企業の方々に同じ質問をしているが、いまだに3割程度を超える企業は珍しい。さすがに誰でもグローバル企業だと認める会社からは4割という答えが返ってきたが。

考えてみてほしい。もし人材グローバル化の定義が、「国境を越えたビジネスを任せられる人材の増加」だとしたら、一度も海外赴任経験のない人材がそういうカテゴリーに当てはまる可能性はどれだけあるだろうか。ゼロとは言わないが、極めて低いだろう。

わが国の企業では、過去20年ぐらい、海外赴任を制限してきたのである。理由として最も大きいのはコストである。よく知られているように海外赴任には多大なコストがかかる。

二番目の理由が、人材の現地化というキーワードである。つまり、現地の人材を活用し、昇進させることがコスト面でも、また地元政府との関係でも重要だという視点である。

そして、最後の理由が、海外赴任の魅力低下である。現在、海外赴任が昇進への登竜門だった時代を記憶している人はかなり上層部に限られる。多くの企業で、責任あるポストでの海外赴任を経験して、企業の上層へとのぼり詰めていった。

だが、今は、多くの企業で海外赴任者は“専門職”である。いったん海外に出ると、何年も行ったきりになる。特に上位層では、複数海外ポストでの「たらいまわし」状態である。そのため後輩にとっては魅力的なキャリアではない。私も仕事がら、今の若者が海外への関心が薄いことは実感しているが、多くの企業で、海外赴任が若者の興味を駆り立てる魅力のある仕事になっているだろうか。