経済、科学、軍事、勢いを増す中国

【アタリ】そうです。ソ連が崩壊したとき、アメリカには先が見えなくなりました。つまり、ソ連は国の形を変えながら今後も敵として残るのか、それともソ連自体が消滅してしまうのか。そんな不確実性に突き当たった。そこで中国へ目を向けて、新たな敵を見出したわけです。

アメリカは現在、ロシアを軍事面の敵と考え、そしてまた中国を経済面の敵と考えています。実際に17年12月、中国を「競争国」と規定する「国家安全保障戦略」を発表しました。将来的には、軍事的な敵になるとも考えています。

【丹羽】お話を聞いていて、「ツキジデスの罠」という言葉を思い浮かべました。ハーバード大学の政治学者グレアム・アリソン教授が言い出した警告です。古代ギリシャの歴史家ツキジデスが著書『戦史』の中で、今から2400年前に起こったペロポネソス戦争を分析したことにちなんでいます。ペロポネソス戦争は、覇権国家だったスパルタと新興国アテネとの間に起こった戦争で、要するに、既存の覇権大国と新興国は衝突する可能性が高いというのが「ツキジデスの罠」です。

アリソン教授は『米中戦争前夜』という著書で、過去500年に起こった16回の大きな覇権争いのうち、戦争を回避できたケースは4回しかなかったと分析しています。

中国は急速に圧倒的な力をつけて、世界のナンバーツーに躍り出ました。GDPは、30年前に比べて30倍以上です。日本はかつては世界第2位の経済大国だったのに、GDPは30年前に比べて1.6倍にしか成長していません。

【アタリ】アメリカには、経済面の敵である中国が軍事超大国になる時期をなるべく遅らせたい、という思惑もあります。今はなるべく弱体化させておきたいがために、ありとあらゆる手段を講じているわけです。

【丹羽】中国は13年に習近平氏が国家主席に就任して以来、かつてトウ小平が打ち出した「韜光養晦(とうこうようかい)」という外交政策、つまり「才能を隠して内に力を蓄えよう」という姿勢から転じて、隠していた爪をいよいよ剥き出しにし始めています。15年には「中国製造2025」という国家戦略を打ち出し、半導体などハイテク製品の基幹部品の自給率を上げて、25年までに「自給率70%を実現する」と宣言しました。建国100周年にあたる49年に、「世界の製造強国の先頭グループ入り」することを目標としているようです。