また、過去40年間、中国から400万人の学生が欧米を中心とした海外に留学しましたが、その半分以上が帰国し始めています。さらに、OECD(経済協力開発機構)の発表によりますと、科学者の人数は、中国が162万人、アメリカが138万人、日本が66万人と、中国が圧倒的にナンバーワンになってきました。

そういう中で、貿易量においても、将来性においても中国が勢いを増し、アメリカとネック・アンド・ネックと言いますか、1、2を競う状況になってきました。トランプ大統領が「これは油断ができない」と、大変な焦りを感じるのは理解できます。

歴史が示す、中国独裁の末路

【アタリ】しかし私は、中国のポテンシャルを過剰に評価してはいけないと思っています。

第1の理由は、中国人の生活水準がアメリカ人の生活水準の15%にも満たないこと。西欧人や日本人に比べても、中国人の生活水準はかなり低い。この先も、低いままでいくと思います。金持ちになってから人口が減少し始めた日本と比べればよくわかりますが、中国は人民が豊かにならないうちに人口減少社会に突入したからです。

人民が豊かにならないために内需が拡大しなければ、これから先の経済成長も大いなる輸出で賄っていくしかありません。これはそう簡単ではないというのが、第2の理由です。

3つ目は、独裁であること。習近平主席は憲法を改正して、国家主席の任期を撤廃しました。共産党の指導部がどれほど優秀だとしても、やはり全体主義的な体制には脆弱な部分があります。独裁の中に市場経済を取り入れていくとブルジョワジーが台頭して、結果的に独裁を追い詰めることは、今までの歴史が示してきた通りです。10年後か20年後か、あるいは50年後なのかもしれませんが、独裁体制が続かないことを中国の指導者は、完璧にわかっているはずです。

【丹羽】今はパンがペンより強いかもしれないけれども、いずれペンが頭をもたげてくるだろう、と私も考えます。パンというのは生活、ペンは思想のことです。

【アタリ】これからの中国には、どういった社会モデルがつくられていくのか。独裁モデルは長続きするのか、一種の革命のようなことが起こりうるのか、体制への反逆者が出てくるのか。ソ連の体制は1世紀は続くだろうと誰もが信じていたのに崩壊したわけですからね。

私は、中国人の心理をあまりよく知りません。車やマンションさえ手に入れば自由がなくてもいいと諦められるのか、物質的な豊かさだけでは満足できなくなるのかどうか。しかしパンだけでは満足できなくなってペンを欲する日が、必ずくると確信しています。

【丹羽】習近平主席がどう思おうと、国民がペンを要求するでしょう。

【アタリ】その通りです。