社会的価値と収益性、いかに両立させるか
調理した食材をミキサーにかけ、改めて具材ごとに成形して盛り付ける。焼き魚はバーナーで焼き色をつけ、肉じゃがのグリーンピースは豆型のスプーンで一粒ずつくり抜いたり、すべてが手作りです。盛りつけも大事な作業です。このようにウェルビーソフト食は、手間暇をかけて丁寧に作られます。
介護食の問題に気づいたのは、古谷さん以外にもいたはずです。しかし、一施設のなかでソフト食を必要とする人は少数です。時間とコストを考えれば、事業化は簡単ではありません。
しかし古谷さんはこの課題に正面から向き合いました。しかも、食としての高いクオリティを求めたのです。
なぜなのでしょう。実は事業に失敗した過去があるのです。
大学を卒業した後、古谷さんは義父が営む食品商社に入社しました。70年代後半、30代半ばのころ、その流通資源をもとにFC事業を立ち上げました。しかし、2度までも事業は立ち行かなくなりました。古谷さんは、「失意のどん底で、企業のあるべき姿とは何かを考えた」といいます。
そこで、事業は社会にとって価値がなければならない、と考えるに至り、「食を通して社会に貢献する」という経営理念を掲げ、ウェルビーFSを起こします。
環境変化のなかにこそ、事業機会は宿る。これは私の信念です。今世紀に入って、日本も激しい環境変化に晒されていますが、このような時代には2つのタイプの機会が現れます。
ひとつは、品質はともかく低コスト・低価格というローエンドの事業機会。いわゆる破壊的イノベーションと呼ばれるものです。実は、今の日本の製造業の多くが、このタイプの競争で苦戦しています。もうひとつは、社会的な困りごとというニーズの出現です。路線バスがなくなった、近くのスーパーが撤退したなど、生活者の不便や不安といった「不」を解消するニーズです。これこそが、先進国として、多様な課題を抱える日本に必要な事業領域です。
ただ、後者の場合は、社会的な価値と経済的な利益をいかに両立させるかが大きなテーマになります。ウェルビーFSは、このテーマに果敢に挑戦している企業なのです。