「食べものを噛み、飲み込むことが難しくなったが、やはりおいしい食事がしたい」――被介護者や食の障害者のそんな切実な願いをかなえているのが、静岡市を本拠とするウェルビーフードシステム。福祉施設や病院を中心に、給食の受託運営を展開する同社。2010年に開発した「ウェルビーソフト食」が今、介護食の市場を変貌させつつある。
著しい高齢化、人口減少、そして地域経済の衰退など、日本が抱える課題は深刻だ。だが、そんな逆境下にあって、一見すると矛盾する社会的な価値と経済的な利益を、両立させている企業がある。
実はこれこそ日本が培ってきた独自の経営スタイルなのだが、その代表例である同社の経営を、慶應義塾大学大学院教授、磯辺剛彦氏が解説する。
小さな「気づき」が、イノベーションを生む
▼価値創造
ソフト食とは、ものを噛む力、飲み込む力が弱くなった人向けの食事です。従来はペースト状にしたもの、それをゼリー状に固めたものが主でした。しかし最近は、健常者の常食と味も見た目もあまり変わらないソフト食が開発されています。
「おいしいものを食べたい」という人間本来の欲求に、「常食に近いソフト食の開発」というイノベーションによって応え、今まで手が届かなかった新たな市場を拓いたのがウェルビーフードシステム(以下、ウェルビーFS)なのです。
私は常々、イノベーションは個人の天才的なひらめきから生み出されるものではなく、普通の人が普段の生活のなかで気づくものだと考えています。その意味で、ウェルビーFSは典型例といえます。