強みを生かした、新たな事業展開

ウェルビーFSは現在、静岡県内に65カ所の受託施設を持ち、1日に1万6000食を提供しています。基本的な事業モデルは、各受託先の厨房で調理配膳しますが、デリバリー業務にも乗り出しています。

1カ月に約5万食を配食するセントラルキッチン静岡。施設向けに加え、個人向けの配食を念頭に置いて設立された。

その拠点が14年に開設したセントラルキッチン静岡です。ここでは、クックチル方式で調理した食事を配送する集約的な業務を行っています。クックチルとは、加熱調理した食品を急速冷却し、食べる時間に合わせて提供する調理システムです。

現在は介護などの施設を中心とした事業者向けの供給ですが、今後は一般消費者への供給も視野に入れています。

「ウェルビーソフト食がテレビや新聞で取り上げられ、たくさんの問い合わせをいただきました。そのなかで、個人の方から『ぜひ、大事な家族においしいものを食べさせてあげたい』というご要望が多かったんです」

古谷博義 代表取締役社長(写真右)●1949年、熊本県生まれ。73年東京経済大学卒業、74年古宝商事入社、77年代表取締役。82年ウェルビーフードシステムを設立、代表取締役に就任。左は川口尚宜専務。

と、専務の川口尚宜さん。

「舌癌で舌を切除した夫を持つ奥さんから、『普通のお寿司はもう食べられないけれど、ウェルビーのお寿司なら食べられるかもしれないから』と相談されたのが、とても印象に残っています」(川口さん)

このときは、古谷さんが何とか提供を試みましたが、叶いませんでした。そうした出来事もあって、ゆくゆくは一般の消費者にも届けたいと、セントラルキッチン静岡を設けました。

個人向けとなると、消費者へジャスト・イン・タイムで届ける配送システムが必要になるのですが、そこにウェルビーFSの強みがあります。

「現段階で、セントラルキッチン静岡は、まだ実験段階だと思っています。ようやく収益の見通しが立ってきたので、個人向けのサービスをどう展開するか、今検討しているところです」(古谷氏)

「当社のソフト食を待ってくださっている方がいる。その方たちを何とか笑顔にしたい」という古谷さんの志は、遠くない将来に実現できるはずです。

ただし、これまでのように事業所の現場で調理する事業と、一般消費者に配送する事業とでは、必要になる経営資源やビジネスモデルは異なります。一般消費者向けの事業では、大手食品メーカーと競合するリスクも出てきます。今まで以上に企業の規模を大きくしなければなりません。