事業承継者がおらず廃業する中小企業が後を絶たない。一方、息子・娘などの後継者への代替わりを機に、化学変化が起きたようにビジネス・組織を革新的に変化させ、大きな飛躍を遂げる中小企業もある。そんな企業を「第二創業」と名付け紹介する。

今回は畳製造を手掛ける兵庫県伊丹市のTTNコーポレーション。フローリングの住居が増え、畳表の市場は1993年の4500万畳から1500万畳へと、25年で3分の1に減少している。厳しい市場のなかでも同社は売り上げを伸ばし、4代目の辻野福三郎氏が社長に就任してわずか9年で売上高65億円、全国に12拠点を展開する国内シェア日本一の企業に成長した。

急成長の裏側にはなにがあったのか。早稲田大学の入山章栄准教授が経営学の視点で紐解く。

ビジネスを拡大させた、新社長の「知の探索」

最初のキーワードは「知の探索」です。革新を起こすには、自分の眼の前のことよりも少し離れたところのことを幅広く知ろうとする好奇心の強さが重要だ、という理論です。

通常1人で完結させる作業を、役割を分担し複数人による流れ作業で行う。辻野社長は自身の経験から、職人の技術を効率よく身につけられるカリキュラムも作成した。

実際、辻野さんは「知の探索」の塊のような方です。辻野さんが子供の頃、家は1階が作業場で2階が住居。商店街のはずれで父、母、祖母の3人で細々と営む、いわゆる街の畳屋さんでした。小学生の頃にはカブトムシやクワガタを700~800匹も育てるほど、探究心旺盛な子供だったそうです。

「6年生の夏祭りの日、父親が僕に商売の楽しさを教えようとしたのか、『おまえのカブトムシ、売ったらええ』って言うので、軒先で売ったんです。少しだけど買ってくれる人がいて、鮮明に記憶に残っています」

さらに辻野さんはカブトムシを売るだけでなく、育成にも興味を持ちます。巨大なカブトムシが育つのではないかと思い、幼虫がいる土にプロテインを大量に混ぜ、全滅させてしまったこともあるのだとか。

このような「実験好き」に見られる探究心は、まさに「知の探索」を持つ方の特徴です。たとえばアマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏は、幼少期に住んでいた祖父の家の車庫を実験室に改造し、科学実験に熱中していたそうです。「実験好き」はイノベーターの共通項かもしれません。

辻野さんの転機は1995年の阪神・淡路大震災にありました。多くの家が倒壊し、新築ラッシュが起こり、畳の需要は急増。高校を中退していた辻野さんは家業の畳作りを手伝い始めます。「畳張りの仕事があまりにも面白く、畳屋を継ごうと心に決めました。それに根拠はないけどなぜかこのとき僕は、日本一の畳屋になれると思ったんです」。