各国の中央銀行が出す「景気判断」は、文章に留保条件が多く、まわりくどい。それはなぜか。ひとつは、当局が自らの情報発信が市場の混乱を招くことを恐れているからだ。最近では、記者会見で発表されるキーワードで自動発注するケースが増えており、当局は神経を尖らせている。なかでも厄介なのは急激な市場変動を引き起こすとされる「プログラム売買」への対応だ。一体なにが起きているのか――。

プログラム売買の“暴走”が引き起こすもの

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Luka Banda)

年末年始の株価下落、為替の大幅な変動には肝を冷やした。特に衝撃的だったのは日本が正月休みの真っ最中の1月3日に起きたドル円のフラッシュクラッシュ。わずか数分の間に109円近傍から104円台まで円高が進行するという異常事態に見舞われた。為替は1日で1%変動すれば大きい方なので瞬時に4%も下落するのは、文字通り瞬間的に相場が壊れるという状況である。FX投資家等のトレーダーからすれば“落ちるナイフを掴む”ような感覚だっただろう。

こうしたフラッシュクラッシュは、かつては大量注文の誤発注にその原因を求めることが多かったが、最近はコンピューターを駆使したプログラム売買(機械取引とも言う、類義語は自動売買、システム売買など)の“暴走”が原因であるとの指摘が多い。またフラッシュクラッシュに限らず、株価や為替の不可解な変動にもこうした取引が背景にあるとされている。

株価がこれまでの経験則で説明のつかないほど割安な水準に下落したり、テクニカル分析において重要な節目をあっさりと突破したりする背景には、コンピューターによる無機質な売買の存在が指摘されている。そこで本稿では、どういった種類のプログラム売買が存在するかを整理し、またそれらが“暴走”する引き金を探す。

多岐にわたる「プログラム売買」の手法

まず一口に「プログラム売買」と言っても、その手法は多岐にわたる。最も身近なのはFX取引で一般的に用いられている「ロスカット」だ。強制的に損切り決済(反対売買)を執行する値段をあらかじめ設定し、そこに到達した瞬間にコンピューターが自動的に売買注文を出すというシンプルなプログラム。主として実現損が小さいうちに取引を終了させる目的で使われ、FX等の証拠金取引では、証拠金が枯渇する寸前の水準で、決済注文が発動されるよう設計されている。

これの応用版が「トレンドフォロー」や「モメンタム」と呼ばれる類の取引。実現損を抑えるロスカットとは異なり、機会損失を最小限に抑える目的で使われることが多い。機会損失とは、端的に言えば「買い逃しによるもうけ損ない」である。たとえば、ある株式が業績の上方修正などで上昇が勢いづいた場合、その波に乗り遅れないよう、そのトレンドに従って買い注文を入れる。