1月3日の「フラッシュクラッシュ」の一因

こうした取引は、しばしば相場急変動の「主犯格」となる。ロスカットはFX取引で多く用いられていることから、1月3日のフラッシュクラッシュの一因であることは間違いない。100、105など区切りの良い水準(5の倍数)を跨いだりすると、その値段に設定されていた損切り注文が次々に執行され、ドミノ倒し的に値が崩れる。

また、たった数日のうちに株価が30%も上昇するようなケースでは、「トレンドフォロー」や「モメンタム」による売買が関係している可能性が濃厚だろう。これら相場追従的な売買は、買いが買いを呼ぶ展開に発展しやすく、相場を一方的に押し上げる傾向がある。もちろん、トレンドフォローは売りのタイミングを逃さない目的でも使われる。そのため、下落に拍車をかけることも多い。

ここからは少し専門的になるが、「リスクパリティ」と呼ばれる戦略が相場変動を増幅しているとの指摘も多い。ここでいうリスクとは変動率(正確には標準偏差)を指す。国内外の株式、国債、社債などの、各アセットのリスク量を合計した「総リスク量」が一定となるようコントロールすることで、運用資産の大幅な変動を回避する運用手法だ。年金やバランスファンドなどが活用しているという。

そうした運用は、株価のボラティリティ(=リスク、標準偏差)が高まると、株式のウェイトを落とす(同時に債券等のウェイトを上げる)ことで、ポートフォリオ全体のリスク量を一定に保つよう設計されている。そのため、多くの投資家が似たような戦略を採用すると、ボラティリティ上昇と株価下落が相互連鎖的に勢いづくことになる。

米国株のボラティリティを示すVIX指数(恐怖指数)が、安定・不安定の節目である20を越える局面で株価が下落する傾向にあるのは、まさに株価の変動を嫌って株式から資金流出が起きていることを物語っている(図表1。日経平均もほぼ同様の関係)。

(画像=藤代宏一)

記者会見の発言をコンピュータに聞き取らせて売買

コンピュータを駆使した戦略としては「イベント・ドリブン」と呼ばれるものがある。これは中央銀行が発表する声明文(政策要旨)を瞬時に読み取るなどして、それらが発表された瞬間に売買注文を出したりするもの。例えば、日銀が発表する声明文では“政策金利”“引き下げ”といったキーワードを読み取り「利下げ」を解読し、その瞬間に円を売ったり、債券を買ったりする。また、低金利が業績圧迫要因になる銀行株を売ると同時に、金利低下の追い風を受ける不動産株を買ったりするケースもある。

文字だけではなく、FRB議長の記者会見などの要人発言をコンピューターに聞き取らせて売買注文を出す投資家もいる。かつてはグリーンスパンFRB議長(1987年~2006年)の書類ケースの厚さから政策変更を読み取ろう(分厚いのは政策変更を説明するための書類がたくさん入ってる説)というクラシックな手法もあったが、現在はコンピューターによる音声認識が使われている。

直近では1月4日にパウエル議長が「patient」という言葉を使った瞬間に株価が上昇する場面があった。この「patient」は、投資家とFRBの間でのみ通じる一種の合言葉のような存在で、FRBが金融引き締めを急がずに辛抱強く待つという含意がある。「patient=株買い注文」となる訳だ。