2018年7月、相続関連の民法改正が国会で決まった。「配偶者居住権」が誕生するなど、1980年以来の大幅な見直しとなる。改正のポイントはどこか。どんな準備が必要なのか。今回、3つのテーマに応じて、各界のプロにアドバイスをもとめた。第1回は「配偶者居住権」について――。(第1回、全3回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年9月3日号)の掲載記事を再編集したものです。

不動産相続で、手元の現金ゼロの場合も

「高齢の配偶者のことを考えると、今回の民法改正で相続の方法に新しい選択肢ができたことは、歓迎すべきことだと思います」と、相続に関する事案を数多く手がけているY&P法律事務所の平良明久弁護士が評価する配偶者居住権だが、「短期」と「長期」の2つの期間のものに分かれる。短期は被相続人が死亡して相続を開始してから6カ月まで、長期は配偶者が亡くなるまでの終身の間である。

写真=iStock.com/JackF

このうち配偶者の生活面を支えるという点で、関係者が活発な利用を見込んでいるのが長期の配偶者居住権だ。相続税を専門に手がけているフジ相続税理士法人の高原誠税理士は、これまでの相続だと次のような問題が生じる可能性があるのだという。

「たとえば5000万円の土地と家屋の不動産、そして5000万円の預金を、同居していた配偶者、別々に自分たちの家を持つ長男と長女の3人で相続したとします。法定相続分でいえば、まず配偶者が2分の1です。そして、子どもが2分の1なので、長男と長女は4分の1ずつとなります(図1参照)。そして、住み続けることを希望する配偶者が5000万円の不動産を相続したら、残りの預金は長男と長女が分け合うことになります。つまり、配偶者の手元には預金がゼロで、その後の生活に不安が残ります」

そこで配偶者が終身住み続けられる居住権を不動産の相続で利用する。配偶者が得る居住権の評価額を仮に不動産全体の2分の1の2500万円とすると、長男と長女は1250万円ずつの所有権を相続する。一方で預金については、配偶者が法定相続分の2分の1に当たる2500万円を、そして残りを長男と長女が1250万円ずつ相続する。「その結果、配偶者は生活資金の不安を軽減することができます」と高原税理士はいう。

実は、これまで配偶者が住居に住み続けることを希望した場合、子どもに現金を渡さなくてはいけないケースもあったのだ。相続をコーディネートする夢相続の代表取締役の曽根恵子さんが、その具体例を紹介してくれた。

「2000万円の不動産と1000万円の現預金の相続財産で、配偶者と子ども1人の場合、配偶者が2000万円の不動産を相続すると、子どもは1000万円の現預金だけで法定割合には500万円不足します。そこで配偶者はどこかで500万円を調達してでも子どもに渡す必要があり、負債を背負い込む事態に陥るかもしれないのです」

なお、高原税理士は「相続人が後妻の方と先妻の子どもさんという場合、『実の母親が暮らしていた家屋敷を渡したくない』といった子どもさんの複雑な心情が絡むことも考えられ、配偶者居住権を利用することで解決を図ることが増えるのではないでしょうか」と話す。