「お嬢サバ」と「よっぱらいサバ」を自社で養殖

【田原】飲食店は成功した。いまはそれだけじゃなく、鯖の養殖にも乗り出したそうですね。

【右田】僕らはトロサバという大きな鯖を世に広げようとして料理店「SABAR」をつくりました。ただ、3年前に大きな鯖が全然獲れない時期があったんです。その状態が将来も続けば、商売が成り立ちません。安定的に事業を続けたければ、自分たちの好みに合ったおいしい鯖を自分たちでつくったほうがいい。そう考えて養殖を始めました。具体的には、2種類の鯖を養殖しています。1つは、JR西日本と提携して鳥取県で陸上養殖している「お嬢サバ」です。

【田原】陸上?

【右田】海洋深層水をくみ上げて、陸上で、無菌状態で育てます。鯖にはアニサキスという虫がつくことがありますが、無菌なので、“虫がつかない箱入り娘”の鯖が育つ。これは19年の3月8日に出荷式を行います。いまのところ2万匹を出荷予定です。

【田原】だから「お嬢サバ」ね。もう1つは?

【右田】福井県小浜市で育てている「よっぱらいサバ」です。小浜市は、かつて日本海の海産物を京都に運ぶ「鯖街道」の起点でした。一方、出口に当たる京都出町柳には、松井酒造という酒蔵がある。そこで、小浜でつくった酒米を京都に運び、それで日本酒をつくり、そのときに出た酒粕を小浜に戻して、畜養する鯖のエサに混ぜる。酒粕で育つから、「よっぱらいサバ」です。こちらも18年度中に1万匹の出荷を計画しています。

【田原】今後は天然より養殖ですか。

【右田】方向性はそうです。この2つの鯖に加えて、いま静岡県の熱海と伊東でも完全養殖をスタートさせようとしています。僕らが目指しているのは、飲食業のSPA。自分たちでつくったものを自分たちで販売して、お客様のニーズをくみ取ったうえで、また生産側に戻していく。そんな仕組みをつくりたいです。

【田原】右田さんが成功すれば、漁業も盛り上がるかな。

【右田】実際に養殖に関わってみて、漁業の世界は所得が低く、後継者がいないという現実を目の当たりにしました。この問題を乗り越えていくために、消費者参加型の「クラウド漁業」ができないかと模索中です。たとえば、世の中にある共通ポイントを使って消費者がスマホでエサを買い、魚の成長を見届け、出荷されたものを食べられるモデルができたら面白い。漁業者だけが漁業をするのではなく、消費者が一次産業に関わり、リスクを取って応援していく。そんな世界ができれば、漁業も活性化するのではないでしょうか。

【田原】わかりました。頑張ってください。

右田さんから田原さんへの質問

Q. 日本の水産業、どうなりますか?

僕は専門家じゃないから、具体的なことは何も言えません。ただ、昔は普通に食べていた魚がどんどん獲れなくなり、高価になったり、輸入物にとって代わられたりしている。僕は鯖なんていくらでも獲れるものだと思っていましたが、もはや鯖でさえ安心していられないと聞いて、今日は本当に驚きました。持続可能性という意味で、日本の水産資源が厳しい局面にあることは、もはや間違いないのでしょう。

天然物が獲れなくなるとしたら、今後は養殖に頼るしかありません。右田さんは自分を「根性なしの小ヤンキー」と言っていましたが、養殖産業の立ち上げについては、腹をくくってやってもらわないといけない。大いに期待しています。

田原総一朗の遺言:おいしい養殖魚に期待!

(構成=村上 敬 撮影=今村拓馬)
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