すでにおなじみの「食べるラー油」の登場で、ラー油市場は10倍に急拡大した。最初に商品を発売した桃屋、後発のエスビー食品の商品開発の現場ではどのようなマーケティング上の工夫があったのだろうか。
市場を10倍にしたラテラル・マーケティングとは
単なるヒット商品の枠を超え、すっかり「普通名詞」として、家庭に定着した感のある食べるラー油。これは、餃子を食べる際に醤油の上に垂らす調味料というこれまでの概念を打ち破る画期的な「新商品」の開発であった。
マーケティング論に照らすならば、この商品はラテラル・マーケティングの典型といえる。ターゲットを絞り込み、その細分化したニーズの充足に専心する従来型の垂直的マーケティングに対し、ラテラル・マーケティングは、水平思考に基づいて機能や用途を大胆に転換することによって、これまで存在しなかったまったく新しい商品やサービスの開発を行う手法である。
食べるラー油は、ラー油の中に具を入れ、素材感を前面に打ち出すことによって、「ラー油イコール調味料」という概念を「ラー油イコールおかず」へと大幅転換させた。それにより、ご飯やパスタにかけて食べるという今までに存在しなかったラー油のフロンティア・マーケットを創造したのである。
その新地平の広大さがなせる業なのだろうが、販売サイクルの長さも半端ではない。昨今、幸運にも新商品がヒットしたとしてもすぐぽしゃってしまう、いわゆる短サイクルが常態化している。が、食べるラー油に関しては、桃屋が2009年8月に出して以来、実に1年半も経過しているにもかかわらず、いまだ小売店頭では品薄状態が続いている。生産が需要に追いつかないのである。
当然、販売成果も、驚くほど絶大だ。食べるラー油が発売される前までのラー油市場は、年間13億円程度の規模だった。ところが、これが現在、100億円を超えるところまで拡大しているという。
お話をうかがったエスビー食品メッセージデザインユニット・マネージャーの上野正史氏によると、直近では「ラー油の市場は約10倍に広がっている」というのだ。しかも、従来通りの調味料としてのラー油の売り上げはまったく落ちず、純粋に食べるラー油の巨大な売り上げがそれに乗っかった形になっている。この事実からも、まったく新しいタイプの商品が誕生し、新しいマーケットが産み出されたと考えてよいだろう。