高い給料をもらっていながら仕事をしない上司、業績を横取りする同僚……。あなたの職場にも、人の成果にタダ乗りする「フリーライダー」たちがいないだろうか。社会構造の変化とともに深刻化したこのテーマについて、2回続けてお届けする。

部下のヤル気を削ぐ“粘土層”上司が急増した背景とは

「うちの上司は、朝出社して、パソコンの前に座るとずっとネットをやっています。申し訳程度に事務仕事をしたと思ったら、自分のブログを更新してたり、ひどいときにはゲームをやってたりするんですよ。部下が仕事の相談に行けば粗さがしと否定ばかり。そのくせ自分では何もやらずに、周りがどんなに忙しくても、定時になるとさっさと帰っちゃう。勤続25年以上だから給料は部下よりもずっと高い。いやになりますよ」

ある広告代理店に勤める中堅社員(36歳)から聞いた言葉である。この方以外にも多くの社員から同じような「仕事をしない上司」「部下のヤル気を削ぐ上司」の報告を受けている。最近ではこの類の上司を「粘土層」と呼ぶそうだ。上に粘土のようにへばりついていて、はがれない。粘土なので風通しが悪く、コミュニケーションの障害になる。粘土なので重く固まっていて、新しいことにチャレンジしない。粘土なので見上げても暗く、希望は見えてこない。思いあたる人も多いのではないだろうか。

「プロジェクトの仕事の中で、わからないことがあるから、教えてくれって言われたので、こちらも忙しい中、いろいろと資料を集めたり、他の頼りになりそうな人を彼に紹介したりしたんです。で、その後しばらく連絡のひとつもなく、音信不通。あとからわかったのですが、そのとき私が調べて教えてあげたことを彼は自分の成果として報告書に書いて、それが認められて昇進だそうです。せめて感謝の言葉くらい言うのが礼儀だと思うんですが。まあ、彼の報告を鵜呑みにする評価制度も問題なんですがね」

これは某メーカーに勤める男性社員(32歳)の体験だ。他人の協力を踏み台にし、他人の業績を自分のものにする。若手から中堅社員に多いタイプである。このようなタイプは「アレオレ詐欺社員」と呼ばれている。自分がやってもいない手柄を「アレ俺がやったんだよ」と言って横取りするからである。

ここに挙げた例は、現在の日本の職場で起こっている、ある問題を象徴している。それは「フリーライダー」、あるいは「タダ乗り社員」とも呼ばれる人々の増殖だ。

フリーライダーとは、社会科学で使われる学術用語で、「集団でメンバー同士の貢献により付加価値を産み出すとき、他のメンバーに貢献させておいて、自分は貢献せず、得られた付加価値の恩恵にはあずかる人」を指す。本当は学術分野によってはもっと厳密に定義づけされている言葉だが、この稿ではこのような意味で使う。

フリーライダー問題は、集団の中で皆が貢献しあって何かをする際には必ず生じる。不正に税金を払わないでおいて公共サービスは享受したり、タクシー代わりに救急車を呼んで病院に行ったりする人もフリーライダーといえる。会社組織に当てはめると「会社に貢献する以上に、良い待遇や給料をもらっている人」がフリーライダーといえる。