このようなフリーライダーは、突然出てきたわけではない。昭和時代から、いわゆる「給料ドロボー」などと呼ばれる社員はいたし、ある程度の規模の会社組織になると「困ったちゃん」と呼ばれる社員は必ず存在してきた。それでも昔の会社組織はそれなりに機能してきたし、日本の高度成長期を担ってきた。
しかし、現在は劇的に状況が変わっている。先に挙げたようなフリーライダーが原因で、直接的間接的に業務に支障をきたすケースが多く起こっている。またフリーライダーの絶対数も増えているように思われる。私たちが行った取材では、フリーライダー管理職ばかりになってしまった会社が倒産してしまったケースもあった。なぜ、フリーライダー問題が今になって深刻化しているのだろうか。
その主な原因は、雇用形態と人口構成の変化である。かつて、終身雇用が一般的だった昭和時代、会社での「困ったちゃん」を、企業は時間とコストをかけて教育し、それなりに仕事のできる人材に育てていた。また、長い間同じ人々が同じ場所で仕事をともにすることによって、インフォーマルなルールがつくられやすく、度を越したタダ乗りはしにくい「空気」がつくられていた。つまり、この時代の日本の会社組織には、フリーライドすればしっぺ返しが返ってくるような組織風土が、意図せずしてつくられていたのだ。このようにお互いを監視できるような長期的な人間関係がフリーライダーを防ぐ機能を持つことは、社会科学の研究でも証明されている(※1)。
また、この時代には、冒頭の粘土層おじさんのような管理職がいたとしても数は少なく、それほど問題にならなかった。なぜなら、人口構成比がピラミッド型で、高年齢者が少なく、仕事のバリバリできる若い世代が多かったためだ。
終身雇用が崩壊し、高齢化社会を迎えた現在、職場の人間関係はより流動的になった。加えて、フレックスタイム、ノマドワーカーの普及で、一個所に同じ人々が集い、長い時間を一緒に過ごすことが少なくなった。職場での人間関係が安定的・長期的なものから、不安定で短期的なものに急速に変化している。
現在では、「困ったちゃん」を長い時間かけて教育するような余裕のある企業は少ない。また、かつてのようなタダ乗りできない「空気」もできにくい。そのうえ、冒頭に紹介するようなタイプの粘土層フリーライダーの数が急速に増え、問題となっている。人口構成比が逆ピラミッド型に近づき、高齢の労働者の絶対数が増えてきたためだ。加えて、彼らの中には、昭和時代に粘土層管理職として楽している上司を見ているがために、自分が年を取って管理職になれば、フリーライダーになったって構わないという価値観を持っている者もいる。
バブル期までの日本では、職場のフリーライダー問題は深刻化せず、特に対処する必要もなかった。それゆえに企業組織において、フリーライダー問題への対処のノウハウは蓄積されてこなかった。気が付くとバブルははじけ、雇用形態も人口構成も変わり、深刻なフリーライダー問題が起こってしまったのだ。