伸びる企業の経営者は「円」より「縁」を大事にしている――。「ひふみ投信」の運用者として成長企業を発掘してきた栗岡大介氏はそう語る。なぜ短期的な収益を追う経営者は、人と人のつながりを重視する経営者に、結果として負けてしまうのか。多くの経営者と親しく、『「食」から考える発想のヒント』(実業之日本社)を出したフレンチシェフの松嶋啓介氏と栗岡氏の対談をお届けしよう――。(第4回)
フレンチシェフの松嶋啓介氏とレオス・キャピタルワークス シニア・アナリストの栗岡大介氏

「円」より「縁」が大事だ

【栗岡大介氏(レオス・キャピタルワークス シニア・アナリスト)】もともとは病弱な幼少期に対するコンプレックスがあって、プロフェッショナルや才能ある人々に会ってきました。すばらしい出会いを重ねる中でコンプレックスはなくなり、出会った人と手足を動かしながらワクワクする未来を考える。DIY(Do IT Yourself)からDIT(Do It Together)をいつも意識しています。そうやっていつもワクワクしながら生きていると、「あなたに会うと元気になる」といわれることが増えてきて、色んな方をご紹介いただいてご縁が広がっていきます。テーブルを囲んで縁を育む、素敵じゃないですか。

僕が、松嶋さんを尊敬しているところは料理の腕前はもちろんのこと、誰かと一緒に未来を創る共創力だと思っています。いつもオープンに自分の考えを伝えるだけでなく、人脈などのネットワークもシェアする。イノベーションは日本語訳すると「新結合」、松嶋さんはご縁を繋いでイノベーティブなアイデアやモノを創る人だと僕の目にはそう映っています。「新結合」を貪欲に生む松嶋さんのルーツは何ですか?

【松嶋啓介氏(フレンチシェフ)】貪欲かと言われたら貪欲じゃないと思う。正確に言うと貪欲じゃなくて、単純に余計なお世話が好きなんだよね。人の話を聞いてるのが楽しいというか、それもまた自分のヒントになるし相手の答えも見つけられるんだけど。

もしかしたら貪欲の欲っていうのが出世欲とか、金欲とか仕事欲とかじゃなくて、ただ単純に知らないよりも知った方が良いでしょっていうことなのかな。お金がなくても世の中のことを様々な角度の違う人から聞いて学べて、自分の蓄えにした方が豊かだと、ただそれだけですね。

【栗岡】なるほど。僕は仕事がら日本中を走り回って色々な経営者の人に会ってるんですが、成長企業の経営者に通じることは、お金や出世のために生きてないということ。“円(お金)よりもご縁を大切にしてるな”と感じています。

最近、メディアで無縁社会という言葉を見聞きすることが増えてきました。会話や食卓を囲むことが減るなど、人間同士の繋がりが希薄化するからこそ、縁の回復のプロセスにおいて新たなイノベーションが生まれると信じています。実際に日本で過疎化が進む地域で、これまでにない試みで成長を続けている企業が沢山存在しています。円の時代から縁の時代にシフトする中で、縁を結び続けて幸せを生む経済サイクルが生まれる。