子会社の雇用の受け皿化は民間版「天下り」

功績のあった人物、特に部長・事業部長経験者や役員経験者に対して、日本企業の対応は手厚い。とりわけ、このような人物を子会社の社長や役員として処遇するという実務は広く観察されることである。しかし、これは民間版の「天下り」とは言えないだろうか。

公務員の独立行政法人、大学、公益財団法人などへの天下りに関して極めて批判的なビジネスパーソンが、この民間版「天下り」を否定しないことに、私は極めて大きな違和感を持っている。中央官庁への勤務経験者を受け入れている企業は少なくないが、このことを問題として取り上げるマスコミは少ない。行政法人、大学、公益財団法人などへの天下りは国民の税金の無駄遣いだから公務員の天下りはいけない、民間企業はそうではない、とでも考えているのだろうか。

しかし、本社での役割を終えた人物が子会社に移り、過去の輝かしい経験と履歴を活用することなく、短期間で子会社を去り、次の人物がその役職につくという実務は極めて異様である。「どこが異様なのか、全くわからない」と感じる人もいるだろうが、子会社の業績を上げるというミッションを持たない人事だと言えば、その異常さを理解してもらえるだろうか。

子会社への移籍後は、荒波を立てず、引き継いだときの状況を維持することを暗黙のうちに求めているとすれば、子会社の存在意義は、役職経験者の「雇用の受け皿」にすぎない。事実、高齢の役員経験者の中には、「子会社は雇用の受け皿として設立された」と豪語する者もいる。もしそうだとすれば、プロパー社員(親会社からの派遣や出向者ではなく、子会社で雇用された社員)は、何を目指して業務に取り組めば良いのだろう。たった数名の親会社からの移籍者の雇用を確保するためだけに子会社が準備されているとすれば、プロパー社員に多くを求めるのは酷である。

株主はなぜ異議を唱えないのか

株主たちが、なぜこのような状況に異議を唱えないのかも不思議である。株主は、個別企業の配当にも関心があるが、より大きな関心は、グループ企業を含む連結企業体の成長と発展にある。だとすれば、親会社業績のみならず。子会社業績の向上にも注目してよいはずである。「こんなにたくさんの子会社があるのに、利益連単倍率が1.5しかないことに納得がいかない」となぜ声をあげないのだろうか。子会社が非上場企業である場合、株主が子会社の業績を知ることは困難である。

ただ、親会社が公表する連単倍率(代表的には、売上高連単倍率と利益連単倍率)を見れば、子会社の連結経営への貢献度を知ることができる。親会社との取引によって子会社が獲得する売り上げや利益は、連結会計では消去される。企業グループ内での取引による利益は、連結業績にはまったく貢献しないからである。株主は、連結業績に貢献することを期待されない人事に、正当性を認めないだろう。

しかし、現実には連単倍率の向上を、目標として設定している企業は少ない。今日の企業においては、株主重視の経営は当然のことだとみなされるようになったが、株主重視の経営について、懐疑的な経営者も決して少なくないのも事実である。