企業の採用選考、いわゆる「就活」が長期化している。経団連は是正のために「指針」を公表したが、ルール破りが横行している。同志社大学大学院の加登豊教授は「現在の就活は学生・大学・企業という3者すべてにマイナスで、日本の競争力を削ぐものになっている。このままでいいわけがない」と警鐘を鳴らす――。

9割の企業が指針は守られていないと回答

今回の一穴:リクルータに入社後数年の若手社員を活用している

街でリクルートスーツ姿の学生を見かけるたびに、大学教育に従事している私は悲しい気持ちになる。今や、大学は、就職予備校となっていることを痛感するからである。

一般社団法人日本経済団体連合会(以下、経団連と略記する)は、2018年4月10日、年度入社対象者の「採用選考に関する指針」(以下、「指針」と略記する)および「『採用選考に関する指針』の手引き」(以下、「手引き」と略記する)を公表した。

これらによれば、2017年度および2018年度と同様、広報活動の開始は2018年3月1日以降、選考活動開始は6月1日以降、内定日は、10月1日以降と定めている。

企業の採用活動の実情に照らして「指針」を読むと、「指針」は欺瞞にみち、有名無実化していることがよくわかる。ルールはまったく守られていないのである。経団連が自ら行った調査では2016年4月入社の就職活動(この時は、8月1日が選考活動の解禁日とされていた)において、実に87.5%の回答企業が指針はほとんど守られていないと回答している。内定解禁日前に内定を出している割合は約5割もある(リクルートキャリア調べ)。このような状況は、現在も継続していると思われる。

守るつもりのないルールが「指針」

ルール自体を「指針」と表現しており、指針の文章も厳格な適用を求めない、極めて曖昧な表現となっている。「指針」は大学等との協定ではなく、経済団体が自ら定めた「できれば守ることが望ましい」とする緩やかな縛りでしかない。もっと言えば、守るつもりのないルールが「指針」なのである。

写真=iStock.com/TAGSTOCK1

「指針」によれば、採用にあたっては、

1.公平・公正な採用の徹底
2.正常な学校教育と学習環境の確保
3.採用選考活動開始時期
4.採用内定日の遵守
5.多様な採用選考機会

を掲げているが、「指針」では、それらを「十分に配慮する」としており、厳守が求められているわけではない。そのため、存在すると言われている学歴フィルターによって、公正・公平な採用が行われていない可能性がある。

広報活動の開始は2018年3月1日以降、選考活動開始は6月1日以降とされているが、実質的な広報・選考活動は、前倒しで実施されており、内定日は、10月1日以降と定めているが、実質的内定である「内々定」は10月1日以前に行われている。また、多様な採用選考機会を提供する企業は少数であり、大部分の企業は、判で押したように横並びで採用選考活動を実施している。

つまり、「規定」も「手引き」も、有名無実の「ざるルール」(ギミック、からくり)だと言わざるを得ない。