2000年代なかば、間接部門を子会社に統合する「シェアード・サービス」という経営手法が大流行した。だが現在は死語になりつつある。成功例がほとんどないからだ。なぜ試みは失敗したのか。同志社大学の加登豊教授は「最大の問題はグループ経営の視点の欠落だ」と指摘する――。

数多くの企業が横並びで設立

今回の一穴:グループ会社の中にシェアード・サービス会社がある。

前回に続き、子会社について検討してみたい。取り上げるのは、シェアード・サービス会社である。

写真=iStock.com/South_agency

経営に関する「流行り言葉(buzzwords)」の大部分は1年もしないうちに忘れ去られる。しかし、言葉は死語になっても、経営の実態に、その死語が生み出した痕跡が残ることがある。有用でない言葉は、忘れた方が良い。しかし、その時には、痕跡も合わせて消し去ってしまわないといけない。企業には、このような痕跡がたくさん残っており、それが経営の大きな足かせとなっている。

その典型例の一つが、シェアード・サービス会社(この言葉が何を表しているかがわからない読者も多いだろう。すでに死語だから仕方がないが)である。子会社のうちでも、特に大きな問題をかかえているのは、2000年初頭に数多くの企業が横並び的に設立したシェアード・サービス会社である。

シェアード・サービスは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が経理部門の合理化をはかるために導入したと言われているが、わが国では、長引く不況による業績低迷、連結会計制度への移行等も影響して、グループ企業のそれぞれが有する間接部門を統合し、経費削減を図るとともに、業務効率化を達成し、グループ連結経営を強化する等を目的として、採用された。

その際、経理、情報システムおよび情報セキュリティ、人事部の中の教育研修機能、総務、法務などの業務が、子会社であるシェアード・サービス会社に移行した。

狙いは、グループ企業内に分散している間接業務要員を子会社に集結させ、専門性をさらに高め、グループ企業以外の顧客を獲得して収益を上げ連結経営に寄与することにあった。また、間接部門要員を子会社に出向・転籍させることで、親会社の人件費負担を軽減できるというメリットもあると考えられた。

効率化も進まず、外部顧客も獲得できず

しかし、シェアード・サービス化で効果を上げている企業は少ないばかりか、新たな多くの問題を生むことになったのが現実である。

まず、親会社の人件費負担については、親会社と子会社の支払い給与の差額のみを出向者に対して親会社が負担するので、確かに効果があるように思える。しかし、企業グループ全体としては、支払い給与総額は変化しない。そもそも、親会社の人件費軽減という発想そのものに、グループ経営の視点が欠落していることを知らなくてはならない。

グループ会社といっても、会社ごとに業務の進め方等について独自の考え方やシステムがあったため、同一業務を担当する人員を集結させても、すぐに業務が円滑に進んだわけではない。業務の統一化に向けて、多くの時間と調整を行っても、相違はなかなかに埋まらなかった。つまり狙い通りには専門性は高まらなかったのである。シェアード・サービス会社設立時に、グループ各社の担当者全員を移籍するという「配慮」が働いたため、必要以上の人員を各シェアード・サービス会社が抱え込むことにもなった。