問題克服のための二つの方策

以上のことから、間接業務をシェアード・サービス会社に移管するという決定は、期待された効果をほとんど生むことがなかったばかりか、企業に大きなダメージを与え続けているのである。それでは、この問題をどのように克服すればいいのだろうか。

方策は二つある。一つは、シェアード・サービス会社がグループ会社に頼らない経営に大きくかじを取り、高収益を実現できる企業へと変身することである。そのためには、提供するサービスの質を向上させ、他社に対する営業を強化し、社員数を大幅に削減し少数精鋭組織となることが不可欠である。

もう一つは、連結会計に貢献が少ないすべてのシェアード・サービス会社を解散し、再び、間接要員を親会社を含むグループ会社に再配置することである。現状を維持するというのは、「何もしない」という意思決定を行うことであるが、これは最悪の意思決定である。何もしなければ、企業力は静かにそして確実に弱っていくことになるだろう。

シェアード・サービス会社設立に限らず、「失われた20年」と呼ばれている時期に企業がとった施策を一度すべて棚卸しする必要があるだろう。なぜなら、純粋持ち株会社の解禁やコーポレート・ガバナンスの強化など、バブル経済崩壊からの脱出のための方策の大部分が、低迷をさらに長期化させたからである。経験から学ぶことの重要性は「経験学習」の研究からも明らかである。ただ、経験・体験することだけでは意味がない。経験・体験を深く洞察し、内省を得ることが極めて大切である。「内省なき経験」は百害あって一利なしであることを確認してほしい。

加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
神戸大学名誉教授、博士(経営学)。1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。
(写真=iStock.com)
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