学生にとっての、求職活動のコスト・ベネフイット分析

「指針」が形骸化していることもあり、学生の就職活動は、早期化しているのみでなく長期化している。「指針」によれば、広報活動の解禁日は3月1日であり、不特定多数向けの企業からの情報発信以外の広報活動は自粛することとされているが、それよりはるか以前に、リクルートスーツ姿の学生を街で見かけている。

学生からの働きかけと理解されているOB/OG訪問(ただ、実際には、大学のキャリアセンターや就職支援課から得られた情報で行動している学生も少なくないので、これを学生からの働きかけに言い切れることはできない)は、4年制大学であれば、3年生の後半早々に始まっているからだ。

最終的に内定を獲得するまでには、学生はたくさんの時間と労力を費やすことになる。具体的には、

・平均すると10社以上の業界分析や企業分析
・インターンシップ(インターンシップに単位を与える大学も少なくないが、そのプログラムがどのようなものであり、単位を与えるに足る要件を備えているかどうかは甚だ疑問である)への参加
・プレエントリーのための書類作成
・会社説明会やセミナーへの参加(多くの場合、予約制となっていて、予約に関しても学歴フィルターが存在しているという学生が少なくない)
・履歴書とエントリーシートの作成
・適性審査であるSPIで高得点を得るための学習
・小論文対策
・面接対策と複数回にわたる面接

などに取り組むことになる。「指針」が厳守されていたとしても、就職活動のために、学生が学業に専念できる時間は大きく制約されることになる。

学内で開催される業界説明会やセミナー等に取り組むサークルが存在することも忘れてはならない。企業との早期の接触が可能なので、就職活動支援サークルに入部する者も少なくない。サークルメンバーとの接触は、広報活動とはみなされていないようだ。

たとえ、希望どおりの企業への就職内定を勝ち得たとしても、学業に専念することから得られたであろう知見や思索、学生生活を豊かなものとする時間や体験などを犠牲にしていることを考えないといけないだろう。

現在の求職活動は、間違いなく学生にとって不幸な仕組みの上で行われているのである。

以上、見てきたことからも明らかなように、採用選考活動は「三方悪し」の仕組みのもとで行われている。昔がよかったというわけではないが、採用開始日は10月1日。そして、ほぼ2週間で採用活動は終了していた。このころには、現在のような多種多様な活動はほとんど存在しなかった。それにもかかわらず、大きな問題はなかったことを考えてほしい。

折しも、経団連自らから見直しの機運が高まっている。それは、オリンピック開催時期に採用活動が重なるという、まったく意味不明な理由によると言われている。

小手先の改善で現状を打破することとできないだろう。一旦すべてを白紙状態に戻し、企業、大学、求職者にとって「三方良し」の仕組みを模索することから始めることが必要だ。「三方悪し」の現状は、日本企業の力を、緩やかだが確実に衰えさせている。

加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
神戸大学名誉教授、博士(経営学)。1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。
(写真=iStock.com)
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