文部科学省は2020年度に小学校でプログラミング授業を必修化する方針を示した。果たして、日々変わる最新技術を子どもたちに教えることはできるのか。人気のプログラミング教育を手掛けるベンチャー企業の代表に、ジャーナリストの田原総一朗氏が聞いた――。

開成で物理教師&野球部コーチに

【田原】水野さんは慶應義塾大学の院生時代に開成高校で非常勤の先生をやっていたそうですね。

【水野】もともと教師になりたくて、教員免許を取るために大学院に進みました。開成高校でたまたま募集があって、週に2~3回、午前中に物理の授業を担当することに。自立を重んじる学校で、生徒たちは自分の意思で部活や勉強に励んでいた。とてもいい学校です。

【田原】先生をやって何か得るものはありましたか?

【水野】僕は高校時代野球部だったので、開成でも野球部のコーチをやらせてもらいました。グラウンドが狭いから、野球部の練習は週に1回。でも、戦略がユニークで、けっして弱くはありませんでした。普通、強打者は4番に置きますよね。でも開成は強打者を2番に、次にいいバッターを1番に置きます。なぜなら、この打順がもっとも先制点を取りやすく、相手を慌てさせることができるから。生徒たち自身に戦略を考えさせていて、これがまさに教育だなと。もともと先生になるつもりでしたが、あらためて、中高生のために自分の時間を使うことを一生の仕事にしたいという思いを強くしました。

【田原】ところが大学院を修了後、人事系のコンサルティング会社に入社します。これはどうして?

【水野】子どもたちに社会や仕事のことを教えられない先生にはなりたくなかったのです。子どもたちにそれらを教えるには、まず自分が経験したほうがいい。そう考えて3年間だけ就職することにしました。

【田原】コンサルティング会社で、どのような仕事をやっていたのですか。

【水野】中小企業向けに組織や採用の課題を解決するコンサルティングをやっていました。中小企業は新卒採用が難しく、既存の社員たちも刺激がなく組織として停滞してしまう。それを活性化させるようなコンサルティングです。

【田原】仕事はおもしろかった?

【水野】各業界の経営者の方々と一緒にお仕事させていただくので、学びが多かったです。たとえば某カラオケチェーンの社長は「お客様から見えるところに段ボールを置くな」と、いつも受付の見た目にこだわっていました。「お客様は非日常を求めてきているのに、段ボールが見えると日常に戻ってしまうじゃないか」というわけです。これはまさしくサービス業の本質。いま僕らは子どもたちを楽しませることを重視していますが、当時学んだことが参考になっています。

【田原】さて、会社は3年で辞められる。でも、学校の先生にならずに起業しますね。どうしてですか。