市場は縮小しても、供給は増える一方

国内アパレルの不振が続いている。販売不振で大手アパレルメーカーでもブランドの廃止やリストラ、大量閉店を余儀なくされ、百貨店の撤退も相次いでいる。国内アパレルの市場規模は1990年代には15兆円を超えていたが、今や10兆円を割り込んでいる。

市場が3分の2に縮んだにもかかわらず、供給される衣料品の点数は増え続ける一方なのだから、「売れない」のは当たり前。バーゲンやセールを乱発し、アウトレットに回してディスカウントしても売れ残るうえに、正規の値段では売れなくなる悪循環。最後には一山いくらの中古衣料として海外に流すしかないのだ。

売れない商品を量産する業界構造も問題だが、アパレルの凋落は消費トレンドの変化と深く関係している。私がヴィーナスフォート(東京都江東区青海にある商業施設。99年開業)を友人と構想・設計していた頃、伊勢丹新宿店の2階3階は「おばけフロア」と言われて、アパレル売り場に女性客が殺到していた。

また当時、若い女性の憧れの海外旅行先はミラノで、あっちで買い物したほうがお得なくらいの内外価格差もあった。そこで、伊勢丹のおばけフロアを参考に、わざわざイタリアに行かなくても町並みの雰囲気を味わえるようなファサードをつくろうと考えたのだ。

しかしスタートアップに関わった10年間で、若い女性のライフスタイルは大きく様変わりした。当初のアンケート調査では、デートの際、女性は通勤着を駅のロッカーに入れて、トイレでデート着に着替えるのが一般的だった。だからヴィーナスフォートに90穴(90便座)という、ギネスに申請できそうな巨大女子トイレまでつくったのである。

「デート着」というカテゴリーが消えた

ところが10年後には、そんなものは用なしになった。通勤着からデート着に着替える習慣がなくなった、というよりデート着という「おめかし」カテゴリーが消滅したのだ。

ジーンズにハイヒールのようなカジュアルな出で立ちで会社に行って、そのままデートも楽しむ。友達の結婚式に着ていくようなドレスや晴れ着はレンタルで十分だし、普段着は近くのユニクロやしまむらで買う――。

そんなライフスタイルに変わってきて、我々がデート着と想定していたブランドはまったく売れなくなってしまった。やむなく入り口近辺の店舗を通勤着にも使えるカジュアルなブランドに入れ替えた。女性用アパレルのカテゴリーが丸々一つ無くなった、ということだ。

ブランドの崩壊は世界的な現象だが、一番苦戦しているのは高級ブランドと手頃なファストファッションに挟まれたセグメントだ。

いわゆる「スペシャリティストア」と呼ばれるブランドで、国産アパレルメーカーもこれをつくって押し出してきたが、今や軒並み業績を落としている。ハイブランドほどの付加価値を与えられず、かといってファストファッションほどの値頃感もないこのカテゴリーは、消費トレンドから完全にはじかれてしまったのだ。