都心部の収益悪化が閉店の背中を押した

百貨店の閉店が相次いで発表されている。今年9月からの1年間で大手だけで9店舗が閉店予定だ。なぜ閉店が続いているのか。主な原因は、都心部の大型店の収益悪化だ。インバウンド需要を含む高額品を中心に、売上高で前年比を下回る店舗が続出。グループ全体で赤字店舗を支える余裕がなくなった。

百貨店業界は1990年代以降、「縮小均衡」へ陥っている。都心部の大型店は売上を維持できているが、地方の郊外店の落ち込みが大きい。背景にはイオンモールなどに代表される「ショッピングセンター」(SC)の大量出店がある。地方においては、消費のハレの舞台が駅前中心市街地から郊外のSCに移った。

このため駅前の「旧市街地」にある大手百貨店は、客の姿もまばらで、いつ潰れてもおかしくないようにみえた。それでも潰れずに営業を続けていたのは、大型店に支えられていただけでなく、「安静」にしていたからだ。売上は年々減り続けたとしても、店員の削減や営業時間の短縮などのコスト削減を行えば、ギリギリの水準で店舗は維持できる。いつかは潰れるだろうが、まだ潰さなくてもいい――。

そうした延命策を諦めさせたのが、都心部での急激な収益悪化だ。2012年末からのアベノミクスによる「円安株高」では、外国人を中心に高額品がよく売れた。ところがアベノミクスが一段落し、局面が「円高株安」に移ると、高額品から売れなくなり、収益は一気に悪くなった。このため懸案に手をつけざるをえなくなった。

こうした決断には、外部環境の変化も影響している。2015年6月から適用されている「コーポレートガバナンス・コード」(※1)では、企業統治の公正性・透明性の強化が目指されている。上場企業には「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、さもなければ実施しない理由を説明するか)が求められるようになった。

この結果、多くの株主が、「アクティビスト」のように経営判断を厳しく問うようになった。たとえばセブン&アイ・ホールディングスの社長交代人事が社外取締役の意向によって否決されたのは記憶に新しい。経営陣は「なぜ社長を交代するのか」「なぜ赤字事業を放置するのか」といった株主からの質問に、客観的で説得力のある答えを用意しなければならなくなった。店舗の閉鎖は地元との軋轢も生む重い決断だが、外部からのプレッシャーが決断を後押ししたといえる。