カード割引の変更で「自爆」した伊勢丹

百貨店の行く末に悲観的な見方もあるが、私は中期的にみれば百貨店業界は成長産業になると予想している。これは都心部で進行中のプロジェクトが2020年までに続々と竣工予定で、投資を回収する時期を迎えるからだ。主なものでは、17年4月の松坂屋銀座店、17年秋の松坂屋上野店南館、18年の三越日本橋本店、19年の高島屋東京などが挙げられる。都心部については、収益拡大の余地が残されている。

収益力を失いつつある百貨店が、こうした大規模な再開発が手がけられるのは、百貨店がその土地の所有者でもあるからだ。都心部の一等地を占有していることは、百貨店の最大の存在意義といっていい。進行中の再開発案件も、百貨店単独ではなく、大手不動産会社などとの共同開発になっている。極端にいえば、百貨店にはカネはないが、土地はある。このため不動産会社の資金力やノウハウを活用することで、都心部の再開発が進んでいる。

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今年9月からの1年間で閉店の主な百貨店

これに対し、郊外の百貨店で、土地や建物を所有していない賃貸店舗は、再生戦略をとるのが極めて難しい。たとえば三越伊勢丹HDの場合、この9月に閉店を発表した三越千葉と三越多摩センターは、いずれも賃貸店舗だ。また営業赤字に陥っている松戸、相模原、府中の伊勢丹もやはり賃貸店舗である。

賃貸の場合、家賃負担があるだけでなく、大型の設備投資に踏み切るには、地主であるオーナーに投資を求める必要がある。しかし地方において十分な投資余力をもったオーナーは少ない。だが投資ができなければ、客足は遠のくばかりだ。

またこれまで閉店を避けてきた三越伊勢丹HDが、このタイミングで決断したことには、同社の営業利益の半分以上を稼ぎ出す新宿伊勢丹など都心基幹店の苦戦が影響しているとみられる。

要因はいくつか考えられるが、インバウンドの減少などの外部要因だけではない。伊勢丹では今年4月から、自社発行カードによる顧客優待を現金割引からポイント制に移行した。年間の利用額に応じて5~10%の現金割引を行っていたのは伊勢丹だけだったが、これを取りやめたのだ。この方針転換は消費者からすれば優待のメリットが減退することになり、浮動客を中心に客離れが生じた懸念がある。

伊勢丹は2店の閉鎖を発表したが、これが収益好転につながるとは言い切れない。なぜなら人員の「維持」が前提となっているからだ。「赤字店舗」は、営業利益は赤字でも粗利益が黒字であれば、人件費などの経費はまかなえていた。賃貸店舗の閉鎖なので家賃は減少するが、人員削減のない店舗閉鎖では、他店に人件費負担を移すことになる。2001年に経営破綻したスーパー「マイカル」は、この悪循環に陥り、次々と店舗を閉鎖していったが、結局、業績を好転させられなかった。