型を継承することに込められた深い意味

一通り基本的な動きを学ぶと、次は二人一組になって組み手の練習へ。あれよあれよという間に、「うわ、空手やってる!」という気分が盛り上がってきた。相手と組んで攻撃や受けをやってみると、すべての動きに意味があるのもわかる。

そして最後は形のおさらい。生徒さんたちが前に出て、ビシッビシッ!と形を決めていった。とにかくキレがあり、かっこいい。あまりの美しさに見とれてしまった。

練習生による型の演舞。動きがすばやく、また一撃に込めた力の重さが伝わってくる。

「これは平安形(へいあんがた)といって初段から5段まであるんですが、体得すると『平和に安心して暮らせる』と言われているんです。それくらい技がいっぱい詰まっているんですよ」

高橋さんはそう説明してくれた。しかも、全部「受け」から始まるのが空手の特徴なのだという。

「『空手に先手なし』という言葉があるんですが、絶対に自分から攻撃することはないんです。つまり空手は自分を守る技なんです」

空手は15~16世紀にかけて沖縄で生まれたという。以後、日本全国に広まり、磨き上げられてきた。先人の知恵や哲学が詰まった格闘技なのだ。90分ほどの稽古でほどよく汗をかいたが、不思議と疲労感はなかった。しかも、どこか心が落ちついている。何だろう? この平和な感じは……。

「結局、空手で学ぶことは生き方なんです。身体と心をつなげる訓練をしながら、己をコントロールすることを学ぶのです。怒るもよろこぶも、感情ってその人次第じゃないですか。自分をコントロールできるようになると、心が落ちついて幸せを感じられます。しかも、身体が強くなると心も強くなり、心が強くなると余裕ができて、相手に対しても優しくなれるんです」

なるほど。ほんの少しの時間だったが、稽古後のこの落ちついた心の状態がすべてを表しているのかもしれない。奥深い格闘技の深淵を垣間見た気がした。

【教室情報】
空手道 空優会赤坂本部
東京都港区赤坂2-20-13
赤坂ヒルサイド2階
http://www.kuuyuukai.com/
宇佐美里圭(うさみ・りか)
1979年、東京都生まれ。ライター、編集者。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルーにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。中南米音楽誌、「週刊朝日」編集部、「アサヒカメラ」編集部などで働く。朝日新聞デジタルで、「島めぐり」、「おいしいゲストハウス」、「東京の外国ごはん」、「ワインとごはんの方程式」等を連載中。ウートピにてフォトエッセイ連載「Viva Photodays!」を執筆。旅とワインが好き。心はラテン、働き方はまだ日本人。
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