手足をバラバラに、かつ連動させる技

ちなみに……と高橋さんは続ける。

「自分の足の小指のことって考えたことありますか?」

もちろん、ない。小指の存在さえ忘れている。

「私は毎日全部の指を触って動かしているんですが、身体の隅々まで意識的に動かせないと、『一撃必殺』なんて力は出ないんです。人間には400から600の筋肉があると言われています。そのすべてを効率的に駆使し、一点集中で大きな力を出すために練られたのが空手の技なんです」

突きの練習。足の幅、腰のキレ、腕の向き、手首の角度などなど。それぞれを正確に動かしてこそ威力が出る。

もともと人間が備えている能力を呼び覚ませるのが空手であり、稽古では「脳と身体をつなげる訓練」をするのだという。そう言われると、なんだかちょっと面白そうだ。しかもかなり集中するので、心身のリフレッシュにもなるという。

夜19時近くになると、仕事帰りの生徒さんたちが集まってきた。今日参加させてもらうのは、女性専用のクラス。みなさん30~50代くらいだろうか。身体を動かしているせいか、ハツラツとしていて爽やかなのが印象的だ。

稽古では、まず立ち方、突き、蹴り、受けなどの技の「基本」と、二人一組で行う「組み手」を学び、最後に四方八方からの攻撃を想定した「形」をおさらいするという。まずは全員で神棚の前で正座をして、黙想。そして、「神前に礼」、「お互いに礼」。「空手は礼に始まり礼に終わる」とのことで、何をするのも相手へ礼をして始めるのだ。

さて、まず足の指の動きの確認から。足の指をグーにしたり、パーにしたりして簡単にほぐす。次に手の動きを加え、手をパーにしながら足をグーにしたり、左右交互にしたり。むむ、なんだか認知症予防の運動みたいだ。いかにも脳に効きそう。

次は「突き」の練習。拳を脇腹につけ、左右交互にパンチのように前に突き出す。シュッ、シュッと道着がこすれる音が道場に響く。うわ、この動きは空手っぽい! 一気にテンションが上がった。

攻めの形を覚えると、次は「受け」。相手の突きから自分の顔面を守る「上段上げ受け」、「外受け」など一連の受けを習ったが、足と手の左右の動きがバラバラで、かつ同時に動くので、集中しないとこんがらがってくる。

次は蹴りの基本、「前蹴り」の練習。爪先立ちをしたときに、床に接触している一点が、相手を蹴ったときに一番力の入る場所なのだそう。そんなこと、30ン年この身体にお世話になっているが知らなかった。

そして次は「前屈立ち」。片方の足を前に出し、膝を少しまげて立つ。足と反対の手を前に突き出して、「逆突き」の練習だ。足を動かしながら、手の「突き」と「受け」を組み合わせていく。さらに前後の動きも加わってくる。順番を追ってどんどん複雑な動きになっていくが、先生の説明がとてもわかりやすいので、なんとかついていける。