グーグルやアマゾンなどのハイテク企業が、こぞって「運動」と「瞑想」を取り入れている。かつて狩猟採集生活を送っていた野性時代の私たちは、「今、この瞬間」に集中し、日々を生き続けた。運動や瞑想は、そんな私たちの身体の奥底にある「野性の遺伝子」を目覚めさせるのだという。デジタル時代に、特別な集中力を得る方法とは――。ハーバード大学医学大学院のジョン・レイティ准教授とオリンピアンの為末大氏の対談、前編(http://president.jp/articles/-/22416)に続き、後編をお届けする。

「倹約遺伝子」は今の時代にそぐわない?

【為末】今回のテーマに「現代における野生」という題目があります。例えばアスリートが好きな食べものを選ぶと、自然とバランスの取れた食事になる、ということがある。一方で、好きなものを選ぶと欲に負けて身体に悪いものばかり食べるから、律するべきという意見もある。私たちは自分自身が欲するものをどのように察知しているのでしょうか?

【レイティ】進化論的見地から考えることが重要です。人類は狩猟採集民として進化する中で、「倹約遺伝子」と呼ばれる遺伝子を創り出しました。これには二つの役割があります。一つは可能な限り高カロリーなものを摂取すること。だからこそ、人々はピザやアイスクリームなどの炭水化物に手を伸ばしてしまう。それは「美味しいから」。なぜ美味しいのかというと、それらにカロリーが多く含まれているからです。

狩猟採集民は常に食事にありつけるとは限らないので、高カロリーの食べ物を見つければ手を伸ばすのです。もう一つは摂取したカロリーを蓄積することです。人間は本能的に運動をしない。なぜなら、エネルギーを無駄にせぬよう備蓄しておく必要があるからです。不要な時には走らないし、トライアスロンもしない(笑)。それは生存手段でもあった。狩猟採集民時代の遺伝子が、今日でも存続しているわけです。

しかし、世界も、生活文化も変化しました。改めて本能を研ぎ澄まし、自分の身体に有益な物を摂取するということに改めて立ち返る必要があるのです。

瞑想で記憶力や集中力が上がる

【為末】時間的制約がある現代において、いかにして「野生」に返ればいいのでしょう?

【レイティ】たとえば森林浴をするだけでもいいのです。より多くの時間を屋外で過ごすのは大切なことです。厳密に管理された時間や、企業活動の中で「野性的な時間」を持つことは難しいかもしれないけれど、努力すべきだと思います。自然と繋がり、埋没してこれを愛する。例えば人間の手があまり入っていない山道(トレイル)を走ることで、今この瞬間に意識が向かい、日常的なストレスから開放されます。このところ先進国でひろまっているマインドフルネスですね。その一部である瞑想もいいでしょう。

米国の学校や企業、特にハイテク企業で実践されています。MIT(マサチューセッツ工科大学)、ハーバード大学、カリフォルニア工科大学などでも大きな波が来ており、学生や教授も瞑想をしています。なぜなら、瞑想によって心身状態が良好になり、記憶力や集中力が上がることを知っているからです。マインドフルになることで、人生に喜びを見出し、デジタル化された現代において、注意散漫になりがちな状態を緩和することが出来る。だからこそ、ここまで大きなブームになっているのだと思います。