──スポーツとビジネスの世界のトップ対談が実現。これまで決して語られることがなかった「裏舞台での時間の使い方」を語りつくした。結果を出し続ける人の決定的な違いが見えた!
前人未到の記録へ挑み続ける「奇跡の野球選手」 イチロー×リスクを取り続ける元祖エリートビジネスマン 宮内義彦

●イチロー
1973年、愛知県生まれ。92年愛工大名電高からドラフト4位でオリックス入団。マリナーズ、ヤンキースを経て、2015年からマーリンズでプレーする。180cm、77kg
●宮内義彦
1935年、兵庫県生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学経営学部大学院修士課程修了。現在、ドリームインキュベータ、ACCESSなどの取締役も務める。


【宮内】今日は少し変な話から始めましょう。経営者は「ここから逃げたい」と口が裂けても言えないから、悪夢も見ます。イチロー君も今日は球場に行きたくないという日があるでしょう?

【イチロー】もちろんありますし悪夢だって見ます。つい先日もイヤーな夢を見ました。大きな川があって、濁流の中に30メートル級のワニや魚がうようよしている。そこを渡らなきゃいけないという夢です。何を示しているのかわかりませんが、今は明らかに以前と違う精神状態なのだと自覚させられました。

【宮内】昨シーズン(2015年)、イチロー君は控えに回ることが多かった。それでも自分の仕事をしっかりやる姿勢は、さすがだと思ったね。

【イチロー】レギュラーで出ていない今の立場は、なかなかしんどいです。ラインアップに名前がある日は、その日の試合のために結果を残すことはもちろん、次の日の仕事をもらうために結果を出す。でも、4本打っても次の日に名前がないこともある。まるで日雇い仕事のようなメンタリティーで、追い込まれた夢ばかり見ていました。

【宮内】今までなかったことだね。

【イチロー】記録の前とか、期待されていることに追われているときに嫌な夢を見ることはありました。ただ、オフにまでこのようになっていることは珍しい。2016年もマーリンズでプレーすることが決まっているわけですから、本来なら追い込まれた精神状態ではないはずです。

【宮内】それはイチロー君が逃げてないからですよ。会社経営も同じで、しんどいことばかりです。しんどいことに負けてしまえば、どんなに楽か。イチロー君はそんなときはどう乗り越えているの?

【イチロー】日々やっていることを同じようにやることが大切だと信じています。心から持っていくのは難しいですが、体をいつもと同じように動かせば、そのうちに心がついてくる。心が積極的になれないときのテクニックです。

【宮内】具体的には何をしているの?

【イチロー】球場に入ってからの準備はもちろんですが、同じように大事にしているのが、ゲーム後から寝るまでの2、3時間です。この時間のうちにその日のことを振り返って結論を出さないと、確実に引きずってしまいます。本来は、その日起きたことは、できるだけクラブハウスで整理する。それが理想です。ただ、今の状態ではなかなか難しい。結論を出せないまま家に持ち帰ることも多くて、2015年は暗い空気の中で妻に肩を叩かれながら飯を食べたことが何度もあった。