──スポーツとビジネスの世界のトップ対談が実現。これまで決して語られることがなかった「裏舞台での時間の使い方」を語りつくした。結果を出し続ける人の決定的な違いが見えた!
丁寧に投げるか、テンポよく投げるか
【宮内】今日のテーマは“時間術”だそうだから、その話もしましょう。人生で一番大切なものは時間だと思っています。たとえば日本の組織はムダなことに時間を使いすぎていて、生産性が低い。野球だってそうです。見ていると、よくわからないような交代とか多いでしょう。そういうことをしているから、試合時間が長くなってお客さんに飽きられる。
【イチロー】この前久しぶりに日本シリーズを見てびっくりしました。短期決戦なのでシーズン中の試合より時間をかけるのはわかるのですが、それにしても異常な長さでした。僕は野球にかぎらず、歌舞伎などの伝統芸能の世界はわかりませんが、どんな種類のエンターテインメントも3時間が限度だと思います。好きなアーティストのライブが2時間半で終わると、もうちょっと見たいな、また来たいなという心理で帰ることができますが、3時間を超えると、おなかいっぱいになって、しばらくいいやという気持ちになってしまう。野球の場合は毎日のように試合がありますから、なおさらです。
【宮内】日本はマニアックな人たちが中核になって野球をやっていて、多くの一般ファンのほうを向いてないんだよ。そのことが、試合時間が長くなる原因の一つになっている。
【イチロー】ムダに時間が長いのは、選手にとってもつらいです。わかりやすいのは、ピッチャーの投球間隔。早い段階でツーストライク取るのにスリーボール使うピッチャーは本当に守りづらい。野手がやりやすいのは、2、3点取られてもいいから、いいテンポで投げてくれるピッチャー。春のキャンプから丁寧に一球ずつ投げる癖がついているから、試合でもそれが出るのでしょうか。
【宮内】そういえばイチロー君は先シーズン、すごく久しぶりにマウンドに立ったね。あのときはどうだったの?
【イチロー】テンポが悪いと野手がやりづらいことは身に染みてわかっているので、そこは意識して投げました。
【宮内】143キロ出たらしいね。
【イチロー】すみません、全力で言い訳しておきます。あの日は寒くて、風も強かった。準備なしで、全力投球もしていないです。僕がマウンドに立ってフォアボール連発というのが一番お寒いパターンですから、まずはストライクを取らないと。
【宮内】イチロー君はもっと速い球を投げられると言いたいのだろうけど、143キロならたいしたものですよ。それに、やっぱり野手のためを思って、リズムよく投げることを心がけているのがいい。ビジネスも同じで、遅い人がいるとみんなが迷惑するから。
【イチロー】そういうものですか。
【宮内】ビジネスはタイムイズマネーです。やっている方向性はよくても、時を逸したら利益が出るどころか失敗することもある。今決めなきゃいけないときにクズグズと決められない人は、リーダー失格です。もちろん決めた結果、失敗することもあります。先のことはわからないから、むしろ失敗のほうが多いくらいでしょう。実際、僕がうまくいく確率なんて、イチロー君の打率より低いからね(笑)。
ただ、専門知識があれば、失敗したときにどれくらいダメージがあるのかというリスクを把握できるし、リスクが見えればそれを取りにいくこともできます。間違えてはいけないのは、リスクを最小化しようといろいろ手当てをすることです。リスクを減らすのはいいことだと思われがちですが、時間をかけて手当てすれば、得られる果実は小さくなっていきます。いいリーダーは、大きな果実を得るために、早い段階で積極的にリスクを取りにいく。ピッチャーの投球間隔じゃないけど、そうしたディシジョンをポンポンとできる人が、ビジネスでは成功します。