自民党が政権奪還を果たした2012年衆議院選、13年参院選の裏側で「情報参謀」として働いたのが著者の小口日出彦さん。始めて会ったのは、小口さんがまさに大車輪の活躍を見せていた13年2月のことである。
もらった名刺には「パースペクティブ・メディア代表取締役」とある。「何をなさっている会社ですか?」「まあ、公開情報を独自分析したニュースレターのようなものを出しているんですよ」。飄々と答えてくれたのを覚えている。むろん嘘ではないが、仕事の本質からは微妙にずらした表現である。当時はまだ仕事内容を公言できるような時期ではなかったのだ。
09年の下野から13年参院選までの4年間、自民党は小口さんのチームがもたらすデータ分析を活用し、情報発信の仕方や選挙への向き合い方を的確で今日的なものへ変えていった。情報の出所は地上波やBSのテレビ番組と、インターネット上の書き込みだ。小口さん自身の表現によると「自民党=クルマ、運転者=自民党の国会議員、私=カーナビ、目標地点=政権奪還」という構図である。
ネットはともかく、テレビ番組の情報収集方法は意外に泥臭い。水戸市に本拠を置く専門の会社エム・データが、のべ100人以上の人手を使い、24時間体制でテレビを視聴して、そこに表れたキーワードをピックアップしていく。この作業が高度な情報分析の入り口となるのである。
当初手さぐりで始まった取り組みだが、やがて党内の信任を得て、13年参院選では候補者全員にタブレットを配布して解析結果や「今日の打ち手」を参照できるまでに進化する。本書にはその過程が、まるでベンチャー企業の成長物語のように清々しくつづられている。
文中に「一生懸命頑張って、一生懸命働いて、豊かな、イチバンの国をつくりましょう」と小泉進次郎氏が呼び掛ける自民党のCMが登場する。著者は「コレだ!」と感動する。
「私が自民党の情報分析を請け負うようになったきっかけは偶然だったが、その後、かなりの知恵と工夫を注いで自民党に肩入れしてきた理由は、このCMの文言に集約されていた。(略)私は自民党の基本姿勢に同調した」
一見クールな情報参謀だが、意気に感じて動くさまはいかにも「水戸っぽ」らしいのである。