食べられる食品をむざむざ捨てる“食品ロス”を扱った本書の著者は、かつて日本初のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」の広報室長時代に、食品業界独特の商慣習「3分の1ルール」を問題提起した。
賞味期限は、メーカーが同ルールに基づく安全係数を乗じて弾き出す。仮に可食期間100日、安全係数0.7なら、賞味期限として記載される日付は製造日から70日目だ。
「最後の3分の1の期間は販売不可となり、まだ食べられるのに返品・廃棄処分されてしまいます。その分、食品ロスが増えるわけです」――当の著者は、抑制の利いた語り口と控えめな物腰。人の話を実に忍耐強く聴く人だ。
トイレタリー・医薬・化学の老舗企業で研究員を務め、ボランティアにも参加。青年海外協力隊の食品加工隊員としてフィリピンでも活動する。転職先の外資系加工食品大手では、広報・PR・客対応の部署に配属された。
消費者窓口で問われるのは、まさに“人の話を聴く力”だ。「精神状態をフラットに保つ必要がありました。お客様からの褒め言葉は100のうち1つくらい(笑)。電話のフリーコールでは最初に地名が表示されるのですが、大阪の“ナンバ”が出ると『来たぁ~!』と(笑)。ヤクザも掛けてくるし、子どもの“お絵描き相談”もありました(笑)」
ストレスが鬱積する日々に追われながらも学習は継続した。誕生日でもある3.11東日本大震災を機に設立した個人事務所で、食品ロス問題に取り組み始める。
気力の源にあるのは「向学心」だ。仕事のストレスを著者は旺盛な向学心で駆逐してきたに違いない。本書で読者も、著者の“傾聴力”と向学心の成果を共有できる。
(永井 浩=撮影)