トランプ大統領の「米国第一主義」
次期米大統領のドナルド・トランプ氏が掲げる「米国第一主義」は眉唾でなさそうだ。今年1月20日の就任を待たずに、昨年11月に米空調機器大手キヤリアが計画していたメキシコへの工場移転を撤回させた強権ぶりは、その本気度を何よりも物語った。
これに限らず、政治介入の“餌食”にさらされる米企業は増す一方で、トランプ氏の経済政策「トランポノミクス」に日本企業も翻弄されかねない危うさが漂う。トランプ氏の勝利は、金融危機とグローバル化により疲弊したラストベルト(さびついた工業地帯)の白人中間層から高い支持を得た要因が大きい。国内の雇用を守り、強い製造業の復権を訴えた米国第一主義は、これら没落した白人中間層を引き付けた。
大規模なインフラ投資を打ち出す一方、「不動産王」と評される経営者らしく、35%の法人税率を15%に引き下げる減税構想を掲げるなど、「親ビジネス」の姿勢への期待も高まる。半面、「強い米国」への回帰は保護主義へのベクトルが強く働き、米産業界にも戸惑いは隠せない。
さし当たって日本にとってのリスクは、オバマ政権下で日米両国が主導して合意にこぎ着けた環太平洋経済連携協定(TPP)が反故になる可能性が極めて濃厚になったことだ。トランプ氏は11月21日、TPPが「わが国をぶち壊す可能性がある」と批判し、就任初日に「離脱を(他の参加国に)通告する」と明言した。TPPを成長戦略に位置付ける安倍晋三政権には、先の臨時国会で関連法を強行採決して成立させた意味はないに等しく、見事にはしごを外されてしまった。日本企業にとっても、アジア・太平洋圏での事業戦略上、重大な影響を及ぼしかねない。