北米自由貿易協定の見直しはあるか?

しかし、TPP以上に日本企業が警戒しなければならないのは、北米自由貿易協定(NAFTA)の行方だろう。なぜなら、トランプ氏は12月1日、メキシコへの工場移転計画を撤回させたキヤリアのインディアナ州にある工場を視察した際の演説で、NAFTAは「全くの災害」と批判し、見直しを示唆したからだ。選挙中にメキシコからの不法移民阻止に国境の壁を建設すると発言し、同国への事業移転を計画していた米自動車大手のフォード・モーターを槍玉に挙げてきただけに、NAFTAの見直しは現実味が強い。実際、同社は1月3日、メキシコ工場新設の撤回を発表したほどだ。

さらに12月1日の演説では、米企業が国外の移転先から米国に輸出した場合、35%の「重税を課す」と米企業の海外移転を警告したほどだった。これは日本の自動車大手にとって他人事で済まされない。メキシコで生産しているのはトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、マツダで、いずれも同国を対米戦略拠点に位置付ける。

トヨタは11月14日、約10億ドルを投じ、2019年の稼働を目指し新工場の起工式を開いたばかりだ。マツダの場合は、14年に稼働した工場が同社の命運を賭けた北米唯一の拠点であり、米国への関税ゼロが打ち切られるようなら屋台骨が大きく揺らぐ。矛先が日本勢に向かうようなら、文字通り「ドル箱市場」の米国で失速する可能性は否めない。

このほか、トランプ氏は多岐な分野で米企業への政治介入を繰り返す。政府調達では次期大統領専用機を受注したボーイングを標的にし、防衛産業大手のユナイテッド・テクノロジーズに圧力をかけて、子会社であるキヤリアのメキシコ生産に待ったをかけたとの見方が専らだ。米国に生産拠点を持たず、外国人就労者や移民を雇用するIT企業にも矛先を向ける。巡りめぐって日本企業が標的になるような事態も考えられなくはなく、トランプ氏の行動には戦々恐々とならざるを得ない。

【関連記事】
トランプバブル到来!「今すぐアメリカ株を買え!」
トランプ大統領就任で、国境を越えたマーケティングは見直されるべきか?
トランプ大統領で視界不良!もはや4度目の官製賃上げは限界
「トランプ大統領」誕生で我々の暮らしはどう変わる?
トランプ氏を低所得者層が支持するカラクリ