トランプ氏は、金持ちなのになぜ庶民から人気を得るのだろうか。エリートに対する羨望の眼差しと権威はなぜ失墜してしまったのか。もしかすると、トランプ氏はアメリカ人が一度失ってしまった「安心感」を持っているのかもしれない。トランプが、「冷戦終結以降失われた陣営の秩序を、取り戻してくれる人」だとすると、彼に安心してついていっていいのか。『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社刊)の著者が、トランプ人気の源泉を分析する。
失われた庶民の闘争心を回復させる
グローバル化の中でますます混沌とする世界について、現代のポピュリストたちは、にわか仕立てながら単純でわかりやすい説明を提示する。敵がいない世界に、仮想の敵を生み出してくれる。失われた庶民の闘争心を回復してくれる。
彼らは、もやもやとした鬱積を抱える現代人の耳元で、「悪いのはメキシコ移民だ」「イスラム教徒がすべての問題の元凶」「EUを脱退すると問題は解決する」などと、断定調で語る。聴いている市民も「本当だろうか、たぶんウソだな」と怪しみながらも、説明してくれること自体に安心感を覚える。エリートは、あれこれ指示するばかりで、何の説明もしないのだから。
人間は本来、にやにやしながら近づいてくる人物に警戒感を抱く。それが欧州の街角ならスリだろうし、日本の街角なら詐欺師かもしれない。ポピュリストに対しても、当然ながら人々は疑念を抱く。その先に待っているのが袋小路であると、みんなうすうす気づいている。
にもかかわらずポピュリストについていくのは、本来なら上の住人なのに自分たちと一緒に歩む姿勢、根性、こころを少なくとも示してくれるポピュリストに敬意を表してのことだろう。遠くにいる立派な人よりも、身近にいる怪しい人の方が、親しみも湧く。少しは付き合おうという気も起きる。