まず、その心配をやめることです。

僕は68歳ですけれど、「出口さんみたいに元気でいるためには、今から何をすればいいですか?」とよく聞かれます。そのときには「今すぐその心配をやめること。若くて元気なうちから、そんなことを気にしていたら病気になりますよ」と答えています。

毎日が充実しているのなら、「充実のギネス記録を作ってやろう」くらいの気持ちで、毎日を楽しめばいいのです。土砂降りになったら、そのときに考えましょう。

――何かしておかなければと、焦る必要はないということですか。

はい。人は充実しているときに、いろいろなことが勉強できて力もつきます。

僕はいつも「人・本・旅」と言っていますが、たくさんの人に会い、たくさんの本を読み、いろんなところへ行くことで、人間の力は高まるのです。つまり毎日を充実させることが、将来への準備となるのです。

――今、置かれている状況がラッキーなのかなと思うと、不安になるんです。

不安になっていいことなど何もありません。たとえば、意中の女性と付き合いはじめた相思相愛の期間に「いつか彼女がいなくなったらどうしよう」と心配しても、仕方がないでしょう。

ココ・シャネルの有名なセリフがあります。彼女は晩年、誰に対しても1000フランのチップを渡していたそうです。ある日、ホテルのエレベーターボーイにチップを渡すと、そのボーイが「マダム、僕は朝も1000フランいただきました」と言った。シャネルは「今日のあなたは運がいいのよ。もらっておきなさい」と答えたのです。

――でも、いいことは長くは続かないという警戒心が必要かな、と。

何よりもよくわからない先のことを心配している時間がムダだとは思いませんか。

長く続かないといえば、地球だってそうです。地球はおよそ46億年前に形成され、生物の誕生は40億年前。人間が生まれたのは20万年前です。そして今から、10億年後には、太陽が大きくなって水が蒸発し、地球の生命は終わるとされています。

地球の歴史を考えれば、人間なくして地球は始まり、人間なくして地球は終わるのです。あっという間の人生ですから、今充実しているのであれば、それをエンジョイすればいいのです。この充実感がこの先10年続くのか、あと1年なのかはわかりませんが、それは誤差の範囲です。

――もっと大きく考えろということですか。

そうです。くよくよしないことです。そもそも人生などどう転ぶか誰にもわからないのですから。

Answer:「充実のギネス記録を作る」くらいの気持ちで、今をEnjoyすればいいのです

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長 

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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