いまやツイッターのフォロワー数36万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。
お悩みファイル22■仕事で「やりたいこと」がないのは悪いことでしょうか
毎年2回、上司との面談でキャリアプランについて話し合う機会があります。20代から30代にかけて 仕事に邁進し、満足感のある会社員生活を送ることができました上司からは、専門職として進むか、それともマネジメントの方へ進みたいかと訊かれ、「特に希望はない」と返答したところ、「これをしたい!」ということについて考えてみて、と言われました。40代になり、最優先すべきことは親の介護、という状況ですし、漠然と好きなこと得意なことはありますが強くこれをやりたい! ということがありません。そんな私が幸せなワークライフを送るために どんな考え方で進めばよいでしょうか。(女性・会社員、49)

今回は「やりたいことは何か」をきかれて困っていますというご相談ですが、客観的に見ればそう聞いてもらえるのは恵まれていますよね。会社の都合だけではなく、社員の自主性や希望を配慮して、より働きやすい環境をつくり、社員のモチベーションを上げる、というのは昨今の風潮でもあります。それはいいことだと思うのですが、「好きなことをやってください」というのは「その責任は自分でとってください」というのとセットなんですよね。そのセットを選ぶことでそれほどの幸福感を感じない人も一定数いるんじゃないかと思います。この方のように、働く意欲はあるけれど、とくに「これをしたい!」というものが今現在とくにない、という人もそのなかに入るのでしょう。

よく600万円くらいまでは年収と幸せに相関があるけれど、それ以上は年収が増えてもそれほど幸せ度は上がらないといいますよね。相談者の方はそれなりに収入も安定していて、自分の人生には十分満足しておられるのだと思います。そういう人には「何がやりたいか」ってわりとどうでもいいことで、5年後、10年後もそれなりに自分が必要とされる状況があれば満足なんですよね。

この相談者の人が求めているベストな状態というのは「親の介護も続けながら安心して働き続けられる」ということだと思うんです。それに上司が気づいていないのだとしたら、「私はとくに仕事でやりたいことというのはないが、できることはこれとこれです。そこで価値は出し続けたいと思っている」ということを伝えることだと思います。「これからやりたいこと」を語れないことはまったく悪いことではないと思いますが現時点でほかの人と比べて自分のほうができると思われることを言語化することは必要かもしれません。

「やりたいことを仕事にする」というのは、こういう悩み相談の場では必ず寄せられる話題ですよね。働く人の永遠のテーマというか。YouTubeのCMが言うように「好きなことで生きて行く」という選択肢は格段に増えたと思いますが、それにしても「好きなことで生きられる」ほどの突出した才能がある人というのは少数です。努力することがまったく苦にならないくらい好きなことがある人って実感としてそんなにいないと思います。スポーツの世界でもそうです。追い込まれるほどに生き生きしていくような人なんて本当に一握りです。