そうでない大多数の人間にとって大事なことっていうのは、「好きなことをやる」というより「世の中に求められることをやる」ということなのではないでしょうか。そう考えると、「何がしたいか」と問われるよりも、「あなたにはこういうことができると思う」とか「これをやってもらえないか」と言われてブレイクスルーにつながるということも案外あるんじゃないかと思います。やってみたらけっこううまくいって「ああ、自分にはこういう才能があったのか」と気づいたりすることってありますよね。やりたいことと向いていることって往々にしてずれているものです。

僕が引退してから何をやったらいいか考えていたときに、ある経営者の方に「僕の才能って何だと思いますか?」と聞いたことがあります。そのとき「なんでも結びつけて話せることだ」と言われました。僕は会社の経営のほうに興味があったので、「いやあ、そっちじゃないんだけどな」と思って聞いていました。でもこの相談室にしても、年齢や職業が全然違う方からご相談をいただいて、それなりに自分の経験につなげて何らかの答えを出すということが仕事になっているし、異業種、異分野の人とまったくストレスなく話ができるというのは自分の強みだなということに最近気が付いてきました。

陸上をやっている頃は、目の前のこと以外に興味関心が向いてしまう注意散漫なところがむしろコンプレックスでした。だから引退しても「一途に打ち込めること」にこだわっていたんです。そうしたら「その注意散漫なところがいいんだよ」という話で、自分ではマイナスと思っていたことが外から見ると価値に見えることもあるんだなと思いました。他にも複数の人から「いろんなものに興味と持っている」ということを生かしたことをやれば、と言われました。そこに世の中の僕に対してのニーズがあるのなら、そこからやっていこうかなと思いました。結果としていまは会社も経営していますが、そういう順番でよかったのかなと思います。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp
(撮影=大杉和弘)
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