ロボット掃除機「ルンバ」を生んだ、米アイロボットが破産を申請し、中国企業の傘下に入ることになった。経済評論家の鈴木貴博さんは「政治の失策という側面がある。アメリカが失ったのは“ただの一企業”ではなく、国民の生活を根本から変えたかもしれない未来だ」という――。
稼働中のiRobot ルンバ ロボット掃除機
写真=iStock.com/Beano5
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「買われるしかなかった」のか

ロボット掃除機「ルンバ」を手がけるアメリカのアイロボット社が経営破綻に追い込まれました。

競合する中国製品の台頭でシェアを奪われ、業績不振が長引いたうえに身売り先が見つからず、アメリカの連邦破産法申請後はルンバの製造を委託していた中国企業の傘下に入ることになりそうです。

アイロボットの株式を取得するのは中国・深圳の杉川集団(ピセアグループ)とみられます。ピセアはアイロボットに対して多額の売掛金があり、事業を継続することでその債権を回収する計画です。

結果としてルンバの販売・アフターサービスはこれまで通り行われる一方で、上場企業だったアイロボットのこれまでの株主が損失を被り、アメリカ企業だったアイロボットは中国企業として存続することになるわけです。

この記事では「なぜそのような結果になったのか」を振り返るとともに、アイロボット社ないしはアメリカ経済にとってもっといい未来がなかったのかどうかを検証してみたいと思います。

もともと「自動地雷探知機」の転用だった

アイロボットが発売したロボット掃除機「ルンバ」が画期的だったのは、まだ生成AIなど出現していなかった2002年に、当時のAIの能力で自宅をくまなく自動で掃除してくれるその性能でした。

そのエンジンとなったのが軍が開発した自動地雷探知機でした。

広い平地をくまなく自動で探知するために開発された軍事技術を転用することで、初期のルンバは100%ではありませんでしたがほぼほぼ九十数パーセント、家の中の床をすみずみまで掃除してくれたのです。

ルンバについては個人的な思い出があります。

私の会社がマンションの一室を借りて創業したのが2003年で、起業初期の経費削減のアイデアのひとつとしてアメリカのコストコで購入したルンバを持ち込んでオフィスの掃除を担当してもらったのです。

当時はまだ「ルンバに掃除をさせやすい間取り」という意味のルンバブルという言葉すらなかった時代でしたが、ソファやコーヒーテーブルを設置する際も、パソコンの配線をする際も、ルンバが止まったりコードを巻き込んだりしないように工夫してオフィス家具を配置しました。

そうして毎日、最後に退社する人がルンバのスイッチを押すようにしたのです。確か初期のルンバにはまだタイマー機能はありませんでした。おかげで毎朝事務所はきれいになっていたのですが、それを実感するのがたまにルンバのごみを捨てるときです。いつのまにかほこりがめいっぱいたまっているのです。

今でも個人事務所の書斎にルンバが一台置かれていて、これも朝わたしが書斎に入るまえに掃除されるようにプログラミングされています。とにかく満足のいく商品だというのが20年以上ルンバを使ってきた私の感想です。

それほど優秀なルンバを販売するアイロボット社がなぜ破綻に追い込まれたのでしょうか?