日本企業の“盲点”
ひとことで言うと「コストの安い競合製品の品質がルンバと同じくらい優秀になったから」ということですが、その経緯がやや現代風だと感じる部分があります。
これまでの歴史を振り返ると、アメリカやヨーロッパで画期的な家電製品が発売されると、後追いで競合製品を出すのはまずは日本の家電メーカーでした。2002年というとまだソニーショックが起きる前で、シャープも液晶テレビ市場でトップを走っていた当時、日本の家電メーカーが強かった時代です。
ところがルンバだけは同じような性能を出せる後追い商品が出せませんでした。
理由は先述の地雷探知エンジンです。
ソフトウエアとしての出来が高すぎて、日本の普通の家電メーカーがキャッチアップするのが難しかったのです。
軍事技術の転用というのは日本企業にとってはひとつの盲点です。
もちろん三菱重工や川崎重工のように日本でも防衛産業として知られる企業はたくさんあるのですが、これまで長い間技術は民間から自衛隊側に提供され秘匿される流れが一般的で、その用途は専門的で、価格は高いものです。
「電子レンジ」「GPS」と同じ
たとえば私たちが普段使っているケーブルを例にとります。
スマホのタイプCやテレビのHDMIみたいな民生用のケーブルは百均でも売っているぐらい安いものです。それと比べて商用のケーブルは技術もコストも10倍くらい高くなります。商用というとたとえばデータセンターの中で使われるような高速で信頼度の高いケーブルをイメージしてください。
そんなケーブルですが、軍事用となるとさらに価格もコストも性能も10倍高くなります。頑丈なだけではありません。展開される場所が寒い雪原だったり、湿度が高い沼地だったり、砂塵が多い荒れ地だったりしても現地で組み立てられ動作する必要があります。
そのため埃をはじく構造にしたり、極低温でも動作する素材にしたり、場合によっては形状記憶合金をつかって自然にコネクタが圧着されるような特殊技術が導入されるケースもあります。
こうして日本では技術は企業から防衛省側に一方通行で流れるのが基本であり、その用途は特殊であるというのが通常です。
一方でアメリカを例にとると、軍が開発した技術がしばしば民生用に転用され、あらたな市場が爆発的に広がることがあります。有名な例は電子レンジや、カーナビに使われるようになったGPSです。
ルンバもそれと同じでした。
