米国が犯した“2つの失敗”
ここでアメリカ政府のふたつの失敗が指摘されています。
実は中国勢との競争が厳しくなった2022年にアイロボットの買収を表明したアメリカ企業がありました。
アマゾンです。
ところがアマゾンの買収はEUとアメリカ、両政府が反対に回ります。
EUの主張はアマゾンがアイロボットを買収することでアマゾンドットコムでルンバが優先的に表示販売され、そのことで欧州の掃除機メーカーが不利益を被るというものでした。EUはアマゾンの買収を認めない方針を打ち出します。
アメリカの連邦取引委員会の判断はもう少しあいまいで、買収はアマゾンの市場支配力をさらに強め、競争を阻害する懸念があるということで詳しい調査を開始すると表明します。これは判断を長期化させることでアマゾンに買収を断念させようという政府方針です。
結局、そこまで頑張ってまで手に入れたい会社でもないということで、アマゾンによるアイロボットの買収はなくなります。
そしてその後、もうひとつのアメリカ政府の決定がアイロボット社を追い込みます。
トランプ関税の発動です。
製造を中国に頼るルンバはトランプ関税でコストが上昇します。結果的に直近の四半期の収益は前年比で半分に落ち込み、破綻に追い込まれました。
“スマートロボット掃除機”という活路
では時計の針を戻して、もし2022年にEU・アメリカ両政府がこの買収を認めていた場合にはどんな未来が到来していたでしょう?
実はアマゾンにとってはルンバのような家電は掃除機以上の価値があります。
アマゾンにしてもグーグルにしてもアメリカのAI大手は家庭内のコントロールタワーとなるデバイスを欲しいと考えています。
その端緒となったのが一時期流行しかけたスマートスピーカーでした。
アマゾンが発売したエコーでは、
「アレクサ、今日の天気を教えて?」
と尋ねることで外出する前の支度が便利になるとか、
「今日の夜は丸の内に行くから、おすすめのレストランがあったら教えてくれない?」
と頼むと気の利いたお店を教えてくれるような使い方が期待されていました。
今の生成AIブームにこれが導入されていたらちょっと違っていたかもしれませんが、当時のAIの性能はたいしたことがなかったせいで、スマートスピーカーが家庭内に定着することはありませんでした。
しかしAI大手から見れば、何らかの形でスマホとは別のAIデバイスを家庭内に普及させて、一気に家庭内の需要を支配したいという野望はあいかわらず強いのです。
そこでルンバです。
仮にルンバがただの掃除機ではなくスマートロボット掃除機になったとしたらどうでしょう。
ただ掃除をするだけでなく、たとえば帰宅前にエアコンのスイッチをいれて部屋を暖めたり涼しくしたりもできるでしょう。ルンバですから見回りもできます。ホームセキュリティの代わりに侵入者を検知して動画をとったり緊急連絡もできるでしょう。遠く離れたひとりぐらしの家族の安否もルンバに任せることができるかもしれません。

