『これは自分のことが書かれてある』
情報をインプットして、思考を整理できる読書。本の恩恵に与ろうと考えたとき、多くのビジネスマンが手に取るのは、即効性の高そうな実用書ではないだろうか。しかし中には歴史や哲学といった人文系の書籍から、知恵を吸収しようとする人もいる。はたして読むべきはどちらか。
「実用書派と歴史・哲学派は、おそらく年齢で分かれる」と分析するのは、これまで300人以上の経営者を取材してきたジャーナリスト・國貞文隆氏だ。
「30代までは実用書派が多くて、40代以降になると歴史・哲学派が増えていきます。それはちょうど仕事で人を使う立場になり、人間力が問われだす時期。実用書のノウハウよりも、歴史・哲学書で学んだ英知が役立つようになるのでしょう」
その実用書の中でも、ドラッカーやマイケル・ポーターのようなビジネス理論書は、経営者の二世といった跡継ぎが好んで読む傾向があるという。
「あまり泥臭い体験をしていないので、競争して勝ち残ったと語るような実業者の成功譚よりも、経営学者が見つけ出した理論や法則に重きを置く。たとえば星野リゾート社長の星野佳路氏が愛読書として挙げているのが、ポーターの『競争の戦略』や、フィリップ・コトラーの『マーケティング・マネジメント』など。おそらく厳しい現場経験の少ない後継者は、創業者が育んできた勘や直感に劣る分を理論で補い、うまく実践に活かそうと考えているはずです。
しかしながらビジネス理論書は、若いときに読んでもあまり頭に入らない。それが一定の経験を積むと、ドラッカーのような社会思想書を読んでいて、『これは自分のことが書かれてある』と感じるようになるものです。ひとかどの経営者が、自分の行動が間違ってないことを確認するために読むのはいいとしても、若い後継者が手にするのは時期尚早かもしれません」