――せっかく育ってきた若手が辞めてしまうので、会社の未来が心配です。

事業の将来性がそれほどなくても、楽しくて毎日、笑い声があふれるような職場なら辞めないと思います。風通しのいい職場ですか?

――それほど悪くはないと思います。給料も平均以上ですし……。

それでしたら、原因は明確です。辞めてしまった若手の上司に問題があるのではないでしょうか。

――確かに、この前辞めた子は、直属の上司にパワハラを受けていたそうです。そういった場合は、黙っていないで声をあげたほうがいいのでしょうか。

ガンガン言ったほうがいいです。管理職は忙しいので、細かな人間関係まで目が届かないものです。ゴマすりをしてくる人が、よく見えてしまう。

僕自身の話をすると、昔に直属の優秀な部下3人と飲みに行ったとき、つい気を許して「隣の部のA君、なかなかいいヤツやな」と話してしまいました。「僕が何かを頼んだら、走ってくるんだよ」と言ったら、部下が「出口さんは人を見る目が甘いし、アホな上司と思っていましたが、ここまでアホとは思っていませんでした。明日から僕ら仕事をしませんよ」って。

――出口さんにも、そんな過去があったんですね。

「なんで?」と尋ねたら「Aさんは、出口さんが偉くなると思っているからゴマすりをしているんです。僕らが頼んだって何もしてくれませんよ」と。

自分の目で確かめようと思い、次の日からA君を注意深く観察したら、部下の言う通りでした。管理職は忙しくて目が届かない。そういう意味で、会社で一番アホなのはトップでしょうね。

――だから日本は、「ヒラメ」のように上ばかり見ている社員が可愛がられるのでしょうか。

それは全世界共通です。よほど目の届く人であれば、細かな人間関係まで汲み取ってくれると思いますが、そのような有能な人はごく一部です。

――トップに直訴してもいいでしょうか。

はい。それでも状況が改善されなければ、その職場には未来がないので辞めていいと思います。

大体、立派な指導者は一番下の人の意見をよく聞きますね。後藤田正晴さんが官房長官時代に言われていました。「お茶汲みのおばさんに愛されないような人間は偉くなろうと思うな」と。

昔の官僚の世界では、女性はお茶汲みの仕事くらいしかなかった。彼女たちは失うものが何もないので、男たちのことを素直に見ている。失うものが何もない人間に愛されなかったら、人格に欠陥があるということです。いくら仕事ができても偉くなったら国のためになりません。

Answer:辞める原因はほぼ直属の上司にあります。不満があったら上層部に直訴しましょう

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長 

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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