イラストレーターなど。著者は自分の肩書をそう称する。漫画家としてデビューし、時には文筆業、時にはタレントとして活躍の場を広げた。仕事内容を聞かれる機会が増え、その肩書を名乗るようになったが、「今は絵を描くだけの仕事がほぼないから、肩書は『など』かもしれません」と笑う。
その「など」の実態を総括するのが本書だ。造語が定着した「マイブーム」「ゆるキャラ」を筆頭に、仏像のかっこよさに注目した「見仏記」、変な土産物を集める「いやげ物」……。大小のブームを牽引した多彩な作業を、著者は「ない仕事」と呼ぶ。
「先人が手をつけておらず、まだジャンルとして成立してないものを探し、あたかもあるように見せてきた。それをネーミングするのも、仕掛けて広めるのも自分。デビューしてから『一人電通』をずっと続けてきたわけです」
確立してない分野ゆえ、世に出す苦労は少なくない。各地の奇祭を「とんまつり」と命名したときは、関係者から怒られた。自分から発信しないかぎり需要が生まれないため、編集者を飲みに誘い、せっせと企画を売り込んだ。好きなことだけを追求してるようなイメージがあるが、実は苦手なものや第一印象が悪いものを扱うことが多いという。
「正直、マイブームが膨大にあるわけではないので。だから玩具のゴムヘビのように『誰が買うんだろう?』と違和感を覚えるものがあったら、まず大量に購入して、『これが好きだ』と自分を洗脳していくんですよ。興味がなかったものを好きになる過程は楽しいし、好きになったとき、自分が変われますし」
先がわからないものに金を落とす行為はつらく、実際、投資を回収できることはほぼない。しかしそこにすら著者は面白さを見出していく。
「『いくら使ってるんだよ!』と思われないと、面白みは出ないですから。応接間に置いてあるラブドールも70万円もするから、笑える。世間で“得ブーム”が続く中、自分はわざと損する“損ブーム”なんだ、と考えればいい」
面白いことが発見できなくなったら捨てられる不安が常にある中、不安だと時間を長く感じて有効活用できると解釈。自身の老化も、「酒席でおむつをすると頻尿対策になる」と発想を転がし、尿瓶を集めだした。「ない仕事」を作り続ける著者に、つまらない仕事は存在しない。