まさか映画の本が売れるとは。『時代劇は死なず!』『なぜ時代劇は滅びるのか』。エールと検証。代表作の相反するタイトルが、春日太一さんの時代劇への思いを端的に表している。
「ぼくは『古い日本映画ってこんなに面白いよ』と呼び込みをしているようなもの。気楽に楽しめるようハードルを下げ、間口を広げたい。このままでは映画も映画本もダメになってしまいますから」
本書執筆のきっかけは春日さんが出演したインターネット番組『WOWOWぷらすと』の市川崑特集。当初は出演依頼に「マニアが語り尽くしてきた監督を改めて語るのは怖い」と感じたという。しかも14年末から半年ほどの間に5冊を刊行。驚異的なペースで仕事を続けていた。だが〈ここで逃げては映画史研究家の名が廃る〉と引き受ける。番組は好評を博した。
「新しい事実を発掘したわけではありません。これまで映画マニアが小難しく語っていた内容をわかりやすく、エモーショナルに語っただけ」
映画本が売れないのは、マニアがマニアに向けて作っているからではないか。映画評論業界への反骨の原点にはそんな疑問がある。
「血湧き肉躍るほど楽しめる本を書こうと心がけているんです。書いた本が面白ければ、映画を観てくれるはず。新しい市場をつくってやろうと」
両親の影響もあり、幼いころからテレビの時代劇番組や黒澤映画に親しんだ。高校時代には学校帰りに名画座に通い詰めた。映画史研究家という仕事には「流れ流れて行き着いた」と春日さんは笑う。
「気がついたらぼくの武器は映画しかなかった。多くの人に読んでもらえる『商売』として続けたい。やりたいネタはまだまだありますから」
(永井 浩=撮影)