連載「為末大の相談室」の総まとめとして、ベストセラー『ない仕事の作り方』(文藝春秋刊)の著者、みうらじゅんさんとの対談をお送りしています。「陽気な引きこもり」だったみうらじゅん氏と「体育会系読書部」を自任する為末大氏。小学校の頃出会っていたらまったく接点がなかったであろうお二人は意外にも意気投合。プロとは何か、長続きする秘訣とは何か、肩書とは何か、超人と変態の違いは……といった「根源的」な問題に、ゆるく、深く迫ります(第1回、第2回、第3回のつづきです。今回が最終回)。
為末さんがいつもフクロウのブローチをつけている理由
【みうら】引退したアスリートはどうするか、という話でしたよね。たとえば為末さんが、明日から「ヘビーメタルのTシャツを必ず着ている」というのはどうですか? 好きでもないんだけどとにかく毎日着る。それで誰かにとがめられたりしそうですか。
【為末】いや、それは大丈夫だと思いますが……。
【みうら】かなりマニアックなメタルのバンドだったら、ずっと着てると何かあるかもしれないじゃないですか。
【為末】オファーとか?
【みうら】スポーツ選手の引退後のファッションって「キャプテンサンタ」ぐらいしかイメージないんですよ。スポーツ選手のイメージは限られてるから、引退後のファッションが「変わってるな」っていう人がいないですよね。
【為末】確かにそうですね。
【みうら】ファッションから引退後のアスリートの世界を改革していくような人はいないんですかね。
【為末】大半はかっこいいほうに行っちゃうんですよね。
【みうら】イタリア系のやつでしょ。そうじゃなくて「どうかしてんじゃないかな」と思うようなワンポイントが入っている服とか……。
【為末】しかも「そのことには触れない」ということですね。
【みうら】そういうことです(笑)そうだ、為末さん、「フクロウのブローチ」をつけるっていうのはどうですか。襟元にいつもつけてて、 おばさんか! みたいな。
【為末】木彫りかなんかのやつですよね。
【みうら】で、みんなひそかに思ってるんですよ。「誰かからもらったのかな」とかね。でもたぶん、誰も突っ込めないんですよ、しばらくは(笑)
【為末】そうですよね。自分から触れない限りはね。
【みうら】「実は走ってたときに応援してくれてた人にもらったものなんです」とか、それぐらいのことをみんな期待しているけど、そうじゃないんですよね。
【為末】理由は特にないと。
【みうら】そう、「そのブローチって何かあるんですか?」って聞かれて「いや、特にないです」って言われたときの外された感って半端じゃないですよ。考えただけでクラッときますよね(笑)