賢い蔡英文は中台定例会議を引き継ぐはず

中華民国第14代総統、蔡英文とはどのような人物か。台湾生まれの本省人で、台湾トップの台湾大学法学部を卒業。米コーネル大学のロースクール、イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに学んだエリートであり超一流の学者だ。

李登輝政権下で経済部の法律顧問や委員などを歴任して、大陸関係の専門家として仕えた。陳水扁政権でも大陸政策に関与し、04年の立法委員(国会議員)選挙で民進党から出馬して当選。民進党のニューリーダーとして注目されて08年には党主席に選出されている。

私が李登輝のアドバイザーをしていたときには、蔡英文は頭のいい政策スタッフの一人という感じだった。

当時、私の台湾に対するアドバイスは、「あるがままの台湾を磨きなさい」ということだった。国なのか、省なのか、地域なのかということはもう問うな。今の台湾をピカピカに磨けば、国力を増していずれ世界が台湾を注目するようになる。大陸に投資するときは台湾経由で行くことになるし、大陸から出ていくものは台湾が先導して世界に売り込むようになる。

あるがままの台湾、英語で言えば「Taiwan as such」、に磨きをかけることが、電子的な、あるいは商流を引っかける万里の長城を築くことになるのだ、と。

蔡英文は自らの対中政策を「現状維持」という言葉で説明しているが、それこそが「あるがままの台湾」なのだ。

15年11月7日、中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統による歴史的なトップ会談が実現した。中台の首脳会談は1949年の中華人民共和国成立以降、初めてのことだ。このときに馬英九は首脳会談の定例化を提案し、習近平もこれを了承している。

首脳会談の時点で馬英九は次期総統選挙で自らの後継者である国民党の候補が負けて政権交代が起きることが100%わかっていた。習近平にしても馬英九がこの5月で総統任期を終えて、次の会談では新しい総統と顔を合わせることがわかっていた。にもかかわらず、両者は首脳会談の定例化で合意したのだ。

蔡英文も中国との関係を重んじているが、表向きは「馬さんが余計なお世話で約束しちゃったから、仕方がないから私も行くわ」という態度で首脳会談に臨めるわけだ。この中台定例会議こそが賢明な馬英九が残した「トラの皮」。蔡英文がこれを断る理由はないし、断るようなら中台関係は再び緊張するだろうが、長年台湾にこだわってきた私はそうはならない、と思っている。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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