台湾の鴻海グループがシャープへの出資比率の引き上げを打診している。これはエレクトロニクス産業におけるサプライチェーンの大きな変化のきっかけになると筆者は説く。

頼れなくなった銀行の支援

シャープが台湾のEMS大手、鴻海(ホンハイ)グループからの出資を受け入れることになったというニュースが多くの人々の注目を集めている。シャープがホンハイの傘下に入ったというセンセーショナルな報道もあるが、私はそうではないと見ている。20%という出資比率はかなりの影響力を持つが、支配権を確実にするほどの比率ではないという微妙な比率である。シャープはなぜホンハイの出資を受け入れたのか、また、ホンハイはなぜシャープへの出資を決めたのか。21世紀に入ってからの日本における事業再編の方法と、EMS業界の構造変化という視点からこの決定が持つ意味を考えてみよう。

シャープは液晶パネルとその関連事業に集中するという戦略をとってきた。この主力事業である液晶事業が急速な悪化に見舞われた。シャープの立て直しのためには、大規模な事業再編が不可避である。高度成長期に企業が事業再編を行うときには、メーンバンクが企業を支えた。銀行は、追加融資に応じたり債務の免除を行ったりして企業を支えたが、最近はそのような支援が期待できなくなっている。事業再編の過程で資産の減損が起こると、融資先企業の自己資本が減少する。そうなると、銀行は融資を続けられなくなる危険がある。それでも企業を救済しようとすると、銀行の融資の質が劣化し、銀行の自己資本が減少する。そうなると、銀行業の自己資本規制のために業務を継続できなくなる危険がある。このような理由から、近年は銀行に頼った事業再編が難しくなっている。

事業再編のためには自己資本に頼らざるをえない。しかし、企業の業績が苦しいときは、増資という形で市場からの資金調達は難しい。だからといって企業再生ファンドに頼ると、短期の株価上昇をもたらすような乱暴な再編が要求される。長期の健全性は犠牲にされがちである。長期的な発展のためには、長期的な視野で企業の再編を見守ってくれる投資家が必要である。もし可能であれば、米国のW・バフェット氏のような長期的な株主の出資を仰ぐことができればよい。欧州では、財閥ファミリーがこのような長期的な出資者になってくれる。しかし、日本にはこのような財閥ファミリーは存在しないし、かつての銀行のように長期的な視点から自己資本の供給をしてくれる投資家もいない。シャープは、このような長期的投資家としての役割をホンハイに期待したのだろうと私は推測している。ホンハイは、シャープの発展が自社にとっても長期的なメリットを持つと考える出資者である。