EMS業界で起こる大きな構造変化とは

ホンハイはなぜシャープの再生が自社の利益になると考えるのか。その理由を探るためには、台湾のEMS企業がどのようにして成長してきたか。現在の国際競争環境の下で台湾のEMS業界にどのような変化が起こっているかを理解する必要がある。台湾のこのようなEMS企業が利益を挙げる鍵は製造コストの削減である。EMSメーカーは、製造コストを下げるために、最初は台湾の低賃金労働力を利用したが、台湾の賃金が上昇するとともに、工場を中国に移転し、中国の低賃金労働を利用している。しかし、EMSが利益を挙げるためのもう一つの重要な鍵は、部品調達コストの削減である。その基本的な手段となってきたのは、量をまとめることによる価格競争力の強化である。台湾のEMS企業はパソコンの生産請負から発展した。ノートパソコンの場合、2つの部品コストの削減が重要な意味を持っていた。一つは、インテルから仕入れるマイクロ・プロセッサー、もう一つは、シャープから仕入れていた液晶パネルである。

部品調達価格を下げるための基本は、部品メーカーに対する価格交渉力を高め、部品の値下げを迫ることである。複数のメーカーから委託されている製品に使われる共通部品に関しては、最も安く供給されていた委託者への売価の適用を要求するだけでなく、量が増加したことに対してディスカウントを要求するという方法だ。それ以外に効果的な方法は、競争業者を育成するというものだ。インテルに関しては、強力な競争相手は育たなかったが、シャープの液晶に関しては、三星というライバルが育った。ところがこのライバルは、シャープ以上の規模に育ち、逆に価格交渉力を持ち始めた。EMS企業にとって重要なのは、最強のサプライヤーが大きすぎる力を持たないようにすることである。このような競争の維持のために、ホンハイは台湾の液晶パネルメーカー、貴美電子救済のための出資をしている。それだけでは、強者の交渉力をそぐには十分ではなかったのだろう。今回はライバルに負けないだけの技術力を持つシャープの経営強化に関心を持ったのだ。EMS企業にとっては、シェアトップの三星と技術トップのシャープがほぼ対等の状態で競い合っているのが望ましいのだ。

それだけではない。EMS業界に大きな構造変化が起こっているのではないかと感じることがある。それはアップルのタブレットの大成功によってもたらされたものだ。先端部品を使った大きな生産委託に応えるためには、EMS企業は、その製品の先端部品を大量に調達できる力を持たなければならない。ところが、その部品を大量に供給できるメーカーは限られている。場合によっては、供給源は一社しかないということもありうる。このような状況になると、これまでの競争型の調達価格の方式は成り立たない。日本の自動車産業に見られるような長期取引型のコスト削減方法を採用する必要がある。

日本の自動車メーカーの多くは、特定のサプライヤーから部品を仕入れている。特に特注部品と呼ばれる部品は、特定少数のサプライヤーから調達される。そのような取引相手からの調達のコストを下げる方法は、毎年のコスト削減目標を明確にし、サプライヤーのイノベーションに対する利益の分配ルールを明確にすることだ。お互いに歩み寄ることによって、サプライチェーン全体での利益を増加させ、それを公平に分配するルールをつくる。もちろんこの場合にも競争は必要である。スイッチング・コストが大きいために他から買うという選択肢は簡単には使えない。そこでの競争は、いつでも交替することができるライバルがいるという形での目に見えないものである。

ホンハイによるシャープへの出資はエレクトロニクス産業におけるサプライチェーンの大きな変化のきっかけになるかもしれない。少なくともそのようなことを考えさせる戦略的提携である。実際にホンハイの出資比率も、自動車メーカーの部品メーカーへの出資比率とよく似ている。完全な支配権を握ってしまうと、微妙な協力関係が維持できなくなる。

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