暴言を連発するキワモノ候補に熱狂する人々

今回のアメリカ大統領選挙では、かつてない異変が起きている。最大の波乱要因は共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ氏だ。

不動産会社トランプ・オーガナイゼーションの会長兼CEOで“不動産王”と呼ばれるトランプ氏が共和党からの出馬を発表したのは昨年6月。当初から米国内の不法移民1100万人の強制送還を公約に掲げ、「メキシコとの国境に壁をつくる。費用はメキシコに負担させる」「イスラム教徒の全面入国禁止」などと暴言を連発して、熱狂と批判の渦を生み出してきた。しかし、実業家だけに自己宣伝には長けていても、しょせんは政治の素人。「トランプ旋風はそのうち収まって、予備選が始まれば撤退するだろう」というのがプロの政治アナリストの大方の見方だった。

共和党で首位に立つドナルド・トランプ候補。(写真=AFLO)

ところが支持率トップのまま本選挙の年を迎え、序盤の山場といわれるスーパー・チューズデー(多くの州で一斉に予備選挙や党員集会が行われる)では、11の州のうち7州でトランプ氏が勝利を収めて、共和党の大統領候補指名レースで俄然優位に立っている。

過去の大統領選でも、弁護士で消費者運動家のラルフ・ネーダー氏や実業家のロス・ペロー氏のように、政治の素人がインディペンデント(二大政党以外の第三党や無所属の独立系)から出て、旋風を巻き起こしたケースはある。特にロス・ペロー氏は1979年のイラン革命で人質になった社員を救出するために民兵を雇ってジェット機で自らテヘランに乗り込み人質を奪還した武勇伝で知られる人物で、92年の大統領選挙に無所属で出馬しながら一般投票で18%を超える得票率を獲得した。

トランプ氏のようなキワモノ候補はインディペンデントで出てくるのが通例だ。そんな人物が共和党の候補として出馬して堂々トップの支持を集めているから、“異変”なのである。

選挙戦が進むにつれて、トランプ氏が「不動産王」と呼ばれるまでにどれだけ違法なことをやってきたか、平気で嘘をついてきたか、過去の行状や言動が暴かれてきた。しかし、いくら化けの皮が剥がれても本人はケロッとして相変わらずの言いたい放題だし、支持率も落ちてこない。